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自分が立ち上げたテクノロジー系ブログメディア「TechWave」の編集長を降り、実質的にその運営から離れることにした。また2年間続けた東京IT新聞の連載も休載させていただくことにした。その理由を、IT新聞の最後の記事に書いたのだが、その元原稿(新聞用に体裁を整える前の原稿、紙面に合わせて字数を減らす前の原稿)があるので、ここに掲載したい。僕が今、何を考え、どこに行こうとしているのかを記録しておくために。

◎本連載をしばらくお休みします この連載も今回で80回目だそうです。ずいぶん長く続けたものです。突然ですが、この連載をしばらくお休みさせていただこうと思っています。ここまで続けられたのも、読者のみなさん、IT新聞編集部の応援があったからだと思います。長い間ありがとうございました。


なぜ休載するのかというと、

これからしばらくは充電期間に入ろうと思うからです。これまでわたしは30年近くIT専門記者として取材、執筆を続けてきたのですが、テクノロジーが社会変革の推進力となったフェーズはそろそろ終わろうとしているのではないかと感じています。


そう感じ始めたのは、Facebookが普及し始めたころからでした。1995年にインターネットの商業利用が始まり、本格的な社会変革の胎動を感じ衝撃を受けました。その直後にブラウザーが登場し、Yahoo!が覇権を握ったかと思えばGoogleが登場しました。Webは新しいフェーズに入ったということでWeb2.0などという言葉も登場しました。でもわたしは、ネットの本来の存在価値は、人々が情報発信をし、つながるところにこそあると感じていましたので、Googleを超える存在が必ず登場するのだろうと考えていました。ですのでFacebookがプラットフォーム戦略を発表したころには、興奮し、かなりの本数の記事を書いて新時代の幕開けを伝えてきまし、個がエンパワーされる時代の始まりに心躍らせたものでした。


しかし予想通りにFacebookが普及したころから、次の大きな潮流が読めずにいました。LINE、WeChatなどのモバイルメッセージイングの台頭はおもしろくはありましたが、でもそれはPC上での個のエンパワーメントがモバイル上に移行しただけのことでした。


Makersムーブメントも起こりましたが、でもそれも言ってしまえばソフトウェアの領域で起こっていることが、ハードウェアの領域でも起ころうとしている、という話に過ぎないように思いました。


既視感ー。


どうやらソーシャルテクノロジーは社会の基盤になり、これからはその基盤をどう活かし何をすべきかが重要な時代になってきたのだと思います。予測通りの展開になったという喜びがある半面、主張すべきことを失った喪失感のようなものも感じています。


もちろん実業の世界で活躍されている読者のみなさんにとっては、この基盤が確立したこれからが腕の見せ所、正念場なのだと思います。ご活躍を期待しております。一方で時代の先読みを生業とするわたしにとっては、もうこの領域でわたしに残された仕事がないように思えるのです。


次の仕事を探すためにも、しばらくは充電期間に入りたいと思います。これまでとは違うタイプの本を読み、違う領域の人と会うために出かけていきたいと思います。しばらくはインプットが中心で、とてもアウトプットできる状態ではないと思います。ですので連載を休ませていただきたい、と自分勝手なお願いをIT新聞編集部に申し出ました。同様の理由で、わたしが立ち上げたブログメディア「TechWave」からも離れることにしました。


インターネットというテクノロジーが社会基盤になれば、次に何が社会変化の推進力になるのでしょうか。よく分かりません。クリエイティブクラスと呼ばれるような新しいタイプの知的労働者階級が社会変革を牽引するという意見もありますし、価値観の変化が社会を根本的に変えるという意見もあります。わたしの知的好奇心の旅の行方にご興味のある方は、わたしのFacebookのフィードをぜひお読みください。アウトプットできるだけのものをつかんだら必ず戻ってきて連載を再開させていただきます。しばらくはお目にかかれませんが、みなさまのご活躍を祈念いたしております。長い間、ありがとうございました。 湯川鶴章