インターネットの商用利用が始まったとき僕はシリコンバレーにいました。その可能性の大きさに衝撃を受けると同時に、新聞記者という自分の職業がどのようになるのだろうという疑問が頭の中を駆け巡りました。シリコンバレーの識者に取材を重ね「電子新聞の時代」という企画記事を5本書いて契約先の地方紙向けに配信したのは、1996年の夏だったと記憶しています。  

残念ながらその記事を採用する新聞社は1社もなかったのですが、前職の時事通信社内では大きな反響を呼び、部長職以上全員にそのコピーが配られました。そのときの反応は「パソコンで文字は読みづらい。ニュースをパソコンで読もうという人はそう多くない」というものが主流だったようです。 その後、2000年に帰国。新聞の未来に関する取材結果をまとめて、2003年に「ネットは新聞を殺すのか」という本を執筆しました。自分の中では新聞業界、マスメディアの未来が見えた、と思ったからです。マスメディアが一時の輝きを失うことは避けられないのは分かりましたが、でも台頭してくる新しいメディアはどのようなものになるのか。その当時はGoogle全盛期でしたが、いずれソーシャルメディアの時代になると僕には思えました。それで2007年に「爆発するソーシャルメディア」という本を書きました。

またメディア業界だけではなく、ネット上でのビジネスモデルはどうなるのかが気になり、広告業界を取材し、2008年に「次世代マーケティングプラットフォーム」という本を書きました。これでインターネット周りの大きな動きは全部、見えた気がしました。

このあと何が起こるのか。それだけをずっと目を凝らして待っていました。5年待ってみて思ったことは、インターネット業界、メディア業界の原型はほぼ出尽くしたのではないか、ということです。インターネットは既に社会のインフラになった。これからは、他の業界、さらには社会全体に大きな変化が訪れるのではないか。

そういう思いを、今回「未来予測 ITの次に見える未来、価値観の激変と直感への回帰」という本にまとめました。 新聞業界、メディア業界、さらにはネット業界と、未来を考えてきた末に、社会全体の未来を考え、本にまとめたわけです。

もうこれで僕の未来探求の旅が終わるのだと思います。インターネットの商用利用から始まった未来探求は、結末を迎えることになりました。

これからは、今見えた未来に対し全力で進んでいくことだと思っています。

この本が、時代の変革期にもまれ、あがき苦しむ人達にとって、一筋の光になりますように。