写真提供:坂本義親氏

7月1日に「未来予測 ―ITの次に見える未来、価値観の激変と直感への回帰という本を電子書籍オンリーで出した。実は僕にとって電子書籍は2冊目。ちょうど3年前にiPad英語学習法という本を、紙の書籍と電子書籍の両方で出した。電子書籍はkindleではなく、自分たちで電子書籍アプリを開発してiPhoneのAppStoreで販売。そのときはまだKindleのユーザーがそれほど多くなかったので、アプリとして書籍を出すほうが得策ではないかと考えたからだ。

そのときにちょっとした実験をした。紙の書籍よりも電子書籍を少し高く設定したんだ。電子書籍のほうは動画も見られるし、各種サイトのリンクをタップするだけで各種情報を得ることができるようになっている。紙の書籍より電子書籍のほうが利便性が高いと思ったので、価格を高く設定したわけだ。

さてどちらが多く売れたか。実は電子書籍のほうがわずかながら、よく売れた。宣伝方法は、僕のブログ(当時はTechWave)だけだったが、それでも十分だったみたい。紙の書籍のほうは重版がかからなかったので、あまり売れなかったのかも。ただ台湾の大手出版社が、この本を中国語に翻訳して販売してくれた。

この経験があったので、価格設定は強気でだいじょうぶだろうなと思ってた。

①しばらくは強気の価格設定でだいじょうぶ

なので今回の「ITの次に見える未来」でも、1250円という価格で販売した。実はAmazonでは1250円までの本だと印税を70%もらえる。1251円以上だと印税が30%に下がる。本当は2000円くらいで販売したかったんだけど、印税率を考えて上限の1250円にした。1250円の本が1冊売れれば875円の印税になる。1500円の紙の本を売っても150円の印税にしかならない。書店網は一種のメディアなので、今日の日本においては紙の本を店頭で売るほうが多くの人の目にとまる。紙の本のほうがよく売れる可能性が、今日ではあるわけだ。でも紙の本が5倍売れたとしても、電子書籍のほうが大きな収入になる。

「ITの次に見える未来」のターゲット読者がどの層なのかを考えると、ネットリテラシーの高い層であり、書店にあまり出向かない層。なので紙の書籍でなく、電子オンリーで十分に売れるのではないかという計算。

この価格に対しては、電子書籍に慣れた人からは「高過ぎる」「強気の価格設定」などという反応をもらった。確かに他の電子書籍を見ると、かなり安い値段で売っているのを多数見かけた。しかし一方で、紙の書籍と両方で出している電子書籍、大手出版社が出している電子書籍は、紙の書籍とほとんど変わらない価格帯だ。2つの相場が存在するわけで、どうせなら高い価格の相場に合わせることにした。

それとAmazon Kindle Direct Publishingというのは、出版に金銭的コストがまったくかからない一種の自費出版。コストは自分の時間と労力だけ。なので、有象無象の電子書籍がたくさん出版される可能性がある。安かろう悪かろうといった電子書籍がこれからたくさん出てくるのだと思う。そんな中で、比較的高い値段をつけることは「内容に自信あり」という意思表示になる。そう考えた。

つまらない本を買った場合の最大のロスは、お金ではなく時間。400円、500円損することよりも、4時間、5時間を失うほうが嫌。少なくとも僕はそう感じるし、多くの人がそう考えるのではないかと思う。

なので、電子書籍に関しては、値段で勝負するより、内容で勝負したほうがいいと思った。原稿は何度も書き直し、自分の中では納得できるものが書けたと思う。魂を込めて書いたつもり。ライフステージや、目の前の興味の対象によって、それが刺さる人もいれば、刺さらない人もいるかもしれないけど、少なくとも僕は魂を込めた。

それと今回、この本を買ってくださる方の多くは、電子書籍を読むのが初めての人が多いのでは、と考えた。恐らく紙の本の相場観を持っているので、特段高いというふうには取らないのではないかって踏んだんだけど、その読みに間違いはなかったみたい。

今は紙から電子への移行期。なので紙の書籍の相場観はまだ生きている。紙の価格と同等の価格帯で電子書籍を出しても問題なく売れるのではないかと思う。問題は移行期が終わったあと。そのときは電子書籍の価格の相場観が出来上がっていて、価格の引き下げが必要になるかもしれない。

でも移行期はまだまだ続くと思う。紙の本が一切出版されないという未来は、まだ先のことだと思う。紙の本の相場観がまだ生きているのであれば、自信のある本に関してはこれからも紙の本の相場観で価格を設定してもいいと思う。

さて「ITの次に見える未来」の売り上げ部数だけど、発売後1ヶ月で約1000部を売り上げたあと、売れ行きが減速。発売後3ヶ月で、全部で1400部ほどの売り上げ部数になっている。1年で目標の3000部に達するのかどうか、というところ。紙の本では3000部が損益分岐点らしいので、3000部を超えると一応は黒字。野球でいうとヒットはヒットだけど、バントで塁に出たようなものだろうか。紙の書籍よりも電子書籍のほうが、長期的に売れるといわれているみたいなので、今後の売れ行きに期待している。

②Facebook広告は効果絶大。共感が何より大事

書店網という、いわば巨大メディアを使わないわけだから、「ITの次に見える未来」に関しては、ネットマーケティングに力を入れた。といっても僕ではなくSpikyWave株式会社の茨木友幸さんがネットマーケティングを担当してくれた。書籍のタイトルもSEO効果を考えてインターネット検索で上位に表示されるようになっている。またどういう経緯で本のことが知られて購入に至ったのかというトラッキングもあの手この手でやってくれているようだ。この辺りの厳密な数字は、もうまもなく集計され、TheWave湯川塾18期のテーマが電子書籍なので、その塾の中で明らかにしてくれる予定。

データは集計が終わるまで待つしかないんだけど、感覚的にはFacebook広告が高い効果を発揮したのではないかと思っている。だれかがアマゾンのページにリンクを張った上で、本について語ってくれた投稿は、Facebookのニュースフィードで何度も何度も表示されていた。右の広告欄に表示されることもあったけど、ニュースフィードの2番目くらいの位置にも頻繁に表示されていた。僕のニュースフィードなので当然僕の友人の投稿が多く、友人の中には「ITの次に見える未来」を勧める投稿を書いてくれた人も多かったので、約1月ほどは、僕のフィードには毎日のように「ITの次に見える未来」の広告が表示されていた。こんなに頻繁に表示されていて、しかも褒めていることが多いので、購入しようと思った人が多いのではないかと思う。茨木友幸さんは、最初からこのFacebook広告に目をつけていて、無料で広告が表示されるようにいろいろ工夫していたんだけど、読みが的中したみたい。

ソーシャル広告の効果を疑問視する声をよく聞くけれど、こと書籍に関しては「この本いいよ」という感じのメッセージがついたFacebookの広告は、効果絶大なのではないかと思った。

逆に言うと、Facebook上で友達に薦めたいほど共感してもらわない限り、情報はまったく伝播しない。このことは最初から分かっていたので、執筆は一切手の抜かず、精一杯書いたつもり。

ただテーマ自体が、価値観の話やスピリチャルの話なんかも混ざっていて、ターゲット層であるネットリテラシーの高い層の人のすべてが共感できる内容ではない。もっと広いターゲット層の中から刺さる人、刺さらない人に分かれるような内容。なので、マーケティングは結構むずかしかった。電子書籍でネットリテラシーの高い層を狙うのであれば、その層のほぼ全員に刺さる内容のほうがいいのではないかもしれない。

この反省も踏まえ、ネットリテラシーの高い層とは違った層の読者向けに内容を大幅に書き換えた本を現在執筆中。「無理もせず会社も辞めず幸せに」という仮題で現在執筆中なんだけど、この本のターゲット読者層にリーチするのにはFacebook広告よりも、リアルの店舗網のほうが有効だと思うので、この本は紙の書籍として出版するつもり。現在、出版してくれる出版社さんを探しています。興味のある方はご連絡ください。tsuruaki@gmail.com

③電子書籍ビジネスはコミュニティビジネス

もう1つ分かったことは、電子書籍ビジネスは、コミュニティビジネスである、ということ。執筆の段階からファンコミュニティに支援してもらい、販売もコミュニティに手伝ってもらうという形がいいと思う。

僕は、TheWave湯川塾という少人数勉強会を主宰していて、塾生OB・OGが250人を超えている。彼らをつなぐコミュニティがFacebookグループとして存在しているので、そのグループの仲間たちと日頃から頻繁に情報交換している。もともと半歩先の未来に興味のある人達の集まり。彼らの言動を見ているだけで、社会の方向性がつかめる。彼らの興味の移り変わりを見て、彼らと議論を繰り返す中で、未来の方向性について自信を深めていった。

その状態からの執筆だった。執筆中も何人かに相談しながら進めた。また原稿が完成した段階で、塾生OB・OG限定で電子書籍を先行販売。約100人ほどが電子書籍「ITの次に見える未来」をその場で購入してくれた。それから7月1日の正式発売までの2週間にわたり、誤字、脱字、事実誤認などの問題点が次々と指摘された。おもしろいもので、専門家としてアドバイスしてくれる人もいましたし、理論展開の問題を見つけるのが得意な人もいた。中にはほかの人は全員見落としたような細かな誤字脱字を探し出すのが得意な人もいた。こうして仲間の力を借りて完全原稿に仕上げていったわけだ。この方法だと編集者は不要になるんじゃないかって思った。

また、電子書籍を出して終わり、ということではなく、電子書籍からさらに別のマネタイズにもつなげていくという全体戦略を描く必要がある、ということも再確認しました。 SpikyWave株式会社の茨木友幸さんにもそう助言されたので、いろいろ準備した。著者サイトは茨木さんが用意してくれた。取材、講演の申し込みも著者サイト上でできるようになっている。また有料のオンラインサロンも開設し、電子書籍の最後にオンライサロンやTheWave塾の紹介ウェブページへのリンクも貼った。リンクを貼れるところが、電子書籍のメリットの1つ。使わない手はない。読者を集めたコミュニティ作りのところが、まだうまく展開できていないけど、これからの作家や出版社はこのコミュニティの設計をしっかりしていく必要があるのだと思う。コミュニティといえば、コンテンツをベースにしたコミュニティで日本最大の先行事例は、ニコニコ動画。来月は、ニコニコ動画の助田徹臣さんを塾に講師としてお招きするので、コミュニティ運営のノウハウを徹底的に教えてもらおうと思っている。

それと海外展開も重要だと考えている。日本市場はこれから急速に縮小していく。出版事業も海外展開を考えていかないと成り立たなくなる。SpikyWave株式会社の茨木友幸さんは既に、海外展開の準備も進めているらしい。茨木さんもに参加してくれるので、その辺りも今後しっかり考えていきたい。

④スマホで電子書籍を読めることを知らない人が意外に多かった

今回意外だったのは、電子書籍を試すということに大きなハードルを感じる人が非常に多いということだ。僕の周りは、ネット業界関係者が非常に多いんだけど、ネット業界関係者であっても電子書籍は、ハード機器のkindleがないと読めないと勘違いしている人が何人もいて驚いた。iPhoneでもiPadでもAndroidでもKindleアプリを無料でダウンロードすれば読むことができるのに、そのことを知らない人が多い。ネット業界関係者でもそうなので、一般の人なら推して知るべし。ここの啓蒙が必要なんだと思った。ところがAmazon自身は、ハードウェアのKindleを売りたいためか、ソフトウェアのKindleアプリのことをあまり熱心に告知していないもよう。「Kindle持っていないので電子書籍を読めない」と誤解する人はまだまだなくなりそうもないという感想を持った。周りの人から教えてもらって徐々に利用者が増えていくのだろうけど、だれもが電子書籍を一度は読んだことがあるという状況になるまでに、あと2,3年はかかるのではないかと思った。

またiPhoneで電子書籍を読めることを知っていても、面倒くさがる人もいた。確かにkindleアプリからは直接、電子書籍を購入できない。多分これはアプリ内課金とみなされ、売り上げの30%をAppleに支払わないとならないからだろう。Kindleアプリから電子書籍を直接購入できないので、購入するにはブラウザでAmazonのサイトにアクセスし、AmazonアカウントとKindleアプリをひもづける作業が必要になる。Amazonアカウントに自分のスマホ上のKindleアプリを一度登録すれば、それ以降は、非常に便利。Amazonのサイトで購入した電子書籍の表紙が、Kindleアプリに自動的に表示される。

一度登録作業すれば、あとはめちゃくちゃ便利なんだけど、この最初の登録作業を面倒くさがって、紙の本を買い続けるひとが多いようだ。

また「絶対に紙で読みたい」という反応もあった。紙と電子の両方を体験した結果、紙のほうがいいという結論に達したわけでは、どうやらなさそうです。単に自分のライフスタイルが確立していて、それを壊したくないというだけのようだ。マーケティング用語でいうとラガードと呼ばれる層の人たちで、年齢の高い人に多い。この人達が電子書籍を読むことは、まずしはらくはないと考えていいと思う。

結論

ネットリテラシーの高い層は、1,2年以内にほぼ全員が電子書籍を一度は体験するのではないかと思う。1度体験すれば、その便利さから、紙よりも電子書籍を好む人が増えると思う。ネットリテラシー層に刺さる内容の書籍に関しては、既に機は熟していると思う。

ただ電子書籍ビジネスは、コミュニティビジネス。コミュニティを形成していないと売れないし、コミュニティを通じて電子書籍から別のマネタイズに引っ張っていって初めて成立するビジネス。コミュニティ構築、運営のノウハウこそが、電子書籍ビジネスのキモだと思う。僕自身もここの部分のノウハウをしっかりと研究していきたいと思う。

そして海外展開。この部分のノウハウはまだほとんど確立していないけど、これができない電子書籍ビジネスに明日はない。AmazonのKidle Direct Publishingという世界で販売できるプラットフォームができたのだから、これを利用しない手はないと思う。この部分のノウハウも蓄積していく必要があると思う。

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