かつてGoogleのCEOがAppleの取締役を務めていたという事実があったことが今では信じられないくらいに、GoogleとAppleのライバル関係がありとあらゆる領域で展開されている。AndroidとiPhoneという誰の目にも明らかなライバル関係に加え、地図、音楽、アプリマーケットなど、両社はあらゆる領域で真っ向からぶつかって行く構えのようだ。しかし、その目指す方向は似通っていても、イノベーションを起こすためのメカニズムは対照的だ。

Googleは、集合知から答えを得る方法を採用している。例えばメガネ型ウエラブルコンピューターGoogle Glassは、まずはExplorer Editionと呼ばれる開発者向けバージョンを開発者イベントで発売。開発者コミュニティーに使ってもらい、開発者から広く意見も集めることで改良を重ね、一般向けバージョンを発売する計画だ。

開発者コミュニティーからの意見を開発過程に取り入れる手法はソフトウエア業界では一般的だが、ハードウェア業界では異例。ハードウェアはこれまで、メーカーが社内で企画を練って完成させたモノを生産して販売するという流れが一般的だった。インターネットが広く普及し、開発者からの声を比較的簡単に集めることができるようになったからこその開発手法、とも言えるだろう。

一方のAppleは、社外の開発者の意見を核にするわけでも、社内の開発チームが自分たちだけで企画を練るわけでもない。「天」からのインスピレーションをモノ作りに取り入れている。このことは非科学的な見解なので、これまであまり真面目に取り上げられることはなかった。しかしAppleの故スティーブ・ジョブズ氏は、インタビューの中で非常に真面目にこのことについて語っている。

このインタビューは1995年に行われたもので、公開されずお蔵入りになっていたものが最近になって発見され、昨年9月にドキュメンタリー映画「スティーブ・ジョブズ1995 ~失われたインタビュー~」として公開された。

このインタビューの中でジョブズ氏は、目に見えない世界から「噴き出してくる何か」の正体をつかみ、その精神性を製品に吹き込むことの重要性を説いている。

この精神性をパソコンのマッキントッシュに吹き込んだので、人々はMacを愛したのだとジョブズ氏は言う。「モノに対して愛しているって表現はおかしくないかい?」と同氏は笑う。人々はMacというモノを愛していのではなく、Macというモノの中に宿っている天からのメッセージ、精神性を愛しているのだというわけだ。

ジョブズ氏を含むMac開発チームは全員が、この見えない世界からのメッセージを大事にする人たちなのだという。「そういう意味でわれわれはヒッピーなんだ」。1960年代に米国西海岸で起こったヒッピー文化は、禅やヨガの思想に傾倒した。ジョブズ氏とそのチームは、その流れを汲んでいるのだという。「もしもっと昔なら彼ら(チームメンバー)はコンピューターではなく、別の人生を歩んだと思う」。コンピューターではなく、詩や歌や芸術に人生をかけたのかもしれない。しかし目の前にコンピューターが出現した。なのでコンピューターを通じて天からのメッセージを表現し、世界と共有しようとしたのだという。

21世紀は精神性の時代になると言われている。シリコンバレーでは、禅やヨガがちょっとしたブームになっているらしい。精神の安定や健康のためという理由もあるだろうが、ジョブズ氏の影響を受けて企業戦略をつかむことを目的に自己の精神性の開発に取り組んでいる経営者もいることだろう。

NASA(米連邦宇宙局)で開発されたチーム・ビルディングの手法「レゴ・シリアスプレイ」は、レゴで遊びながら言語化されていない段階の発想を、チームで1つのカタチにまとめていく、というもの。議論だけでは到底到達できないような、深層心理に存在する答えにたどり着こうという試みだ。

米国の一部大手企業で取り入れられている「U理論」は、思い込みや感情的しこりを取り除き、心の奥底にたどり着いた後に得られる「未来からのメッセージ」を受け取り、それを企業戦略に昇華させる、という考えの経営理論だ。知り合いの僧侶によると、U理論の考え方は禅そのものだという。

Appleだけが突出しているわけではない。イノベーションをつかむための1つの手法として、米国では精神世界の探求が始まっているのだ。日本が、データ分析を中心とした米国MBA的経営手法を真似し続ける中で、米国の一部経営層は禅やヨガといったアジアの価値観に傾倒し始めている。なんとも皮肉なことだ。

インスピレーションを人から得ようというGoogle。天から得ようというApple。どちらも非常に21世紀的なやり方だ。

人にも天にも頼らず、自分の才能とスキルだけを頼りに進んでいこうとする時点で、勝負に既に負けている。21世紀はそういう時代になろうとしているのだと思う。


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