テクノロジーが次に地殻変動を起こすのは、医療の領域。そう思って取材を続けている。

地殻変動のきっかけを作っているのがApple。そのAppleの動きで注目すべきものが2つある。1つは、無線規格の中でもBluetooth Low Energy(BLE)に関してだけは「made for iPhone」の審査を受けなくても、サードパーティがiPhone周辺機器を作ることを認めたこと。これで健康データを集めることのできるウエアラブル端末や小型機器がBLEを搭載しiPhone向けに次々と登場することになる。もう1つはAppleが次期OSに搭載するといううわさの健康データ集計アプリ「HealthBook」。このHealthBookに関して米ブログメディア「9to5Mac」が詳細な記事をアップしていたので、この記事をベースにAppleが何を狙っているのか、考えてみたい。

その記事とは「This is Healthbook, Apple’s major first step into health & fitness tracking(これがHealthbookだ。Appleの健康・フィットネス分野への最初の大きな一歩)」というタイトル。書いたのは、これまでもApple関連スクープで何度もヒットを放っているMark Gurman記者。「iPhone発売から7年。iPad発売から4年。Appleは、再構築の機が熟した業界を見つけた」という書き出しで始まる長文の原稿だ。

この記事には、Healthbookのスクリーンショットが掲載されている。ただこれは実際のスクリーンショットを入手したのではなく、同記者自らが「完全に再現したもの」としている。恐らく同記者は、実際のアプリのデザインを見たのだろう。

まあデザインはどうでもいいのだが、問題はどのようなデータを管理できるようになっているかだ。これによりAppleがどのようにヘルスケア業界の再構築を狙っているのかが分かるからだ。

健康データは、「血液検査」「心拍数」「水分レベル」「血圧」「身体アクティビティ」「栄養」「血糖値」「睡眠」「呼吸数」「酸素濃度」「体重」といったカテゴリーに分けられている。

ストレスレベルや妊娠関連データもHealthbookに含まれるという一部報道もあったが、同記者が見たスクリーンショットにはそうしたデータは含まれていなかったという。

フィットネス関連のカテゴリーは、「身体アクティビティ」「体重」「栄養」の3つ。「身体アクティビティ」はどうやら万歩計のようなものらしい。iPhoneの半導体チップ「M7」自体の中にモーションデータを記録するコプロセッサーが組み込まれているので、それによって歩数を計測できるみたいだ。歩数によって消費されたカロリー数などが計算できるもよう。

「体重」カテゴリーでは、日々の体重を入力できる。身長を入力することでBMI値(肥満度の数値)も計算してくれる。

これらのデータは、日、週、月、年、ごとのグラフとして見ることも可能。

「栄養」カテゴリーでは、自分の食事を記録できるようだ。どのように栄養を記録するのかは現時点では不明。某日本企業が、写真を獲るだけで食材を自動認識し、カロリー計算までやってくれる技術を開発していたという話を聞いたことがある。Appleは同様の技術を搭載してくるのだろうか。

フィットネス関連のカテゴリーのスクリーンショットを見ても、特に斬新さはない。しかしAppleは、フィットネスに関する世界的に有名な専門家のJay Blahnik氏を雇用している。同氏は、NikeのFuelBandの開発に関わった人物。同氏の力を借りて、Healthbookにデータを送信してくるようなウエアラブル端末か何かのデバイスの開発を進めているかもしれない。それがiWatchなのかどうかは分からないが。

「心拍数」「血圧」は、健康データの最重要カテゴリー。Healthbookには、当然カテゴリーが設けられるものとみられていた。ただどちらもスマートフォンでは計測できない。心拍数の取得にはリストバンドや腕時計型ウエアラブルが必要になってくる。血圧は腕に布を巻くような器具が不可欠。

「酸素濃度」は、データを採取するには指を挟むような形状のパルスオキシメーターと呼ばれる機器が必要。Masimo社はスマートフォンに接続可能な小型パルスオキシメーターを開発している。

「血液検査」「血糖値」といったカテゴリーが入っていたことは、少し予想外。糖尿病患者はタイプ1とタイプ2の2種類に大別でき、タイプ1だと一日に6回、タイプ2だと週に1、2回、血液検査をしないといけないらしい。この煩雑な計測作業を針を使わずに簡単にできるのであれば革命的なイノベーション。だが針を使わないウエアラブル機器を開発したと主張するベンチャー企業は数社存在するものの、まだ実用化に成功しているところはない。つまりこうしたデータは今のところ、人間ドックや病院の定期健診でしか入手できそうにない。検診の結果は、紙に印刷されて渡されることが多い。これを手入力させるのか、それともAppleは何か新しい入力方法を考えているのだろうか。

iPhoneのAppストアには、糖尿病患者向けのアプリが多数存在するが、多くは血糖値を奨励レベルに維持するとポイントがもらえるようなゲーミフィケーション系が主流のようだ。Appleが、Healthbookをその程度のアプリで終わらせるのかどうかが興味深いところ。

一方、「水分レベル」は、アスリートにとっては重要なデータ。果たしてどのような形で計測するのだろうか。



「呼吸数」は、血中酸素濃度計でも計測できるのだとか。

「睡眠」に関しては、iPhoneを枕の下やシーツの下に設置することで、加速度センサーを使って寝返りを察知し睡眠の深さを計る、というアプリは既に存在する。朝方に睡眠の浅い時間にで目覚まし時計が鳴る、というアプリだ。友人でこのアプリを使っている人は「遅刻しなくなった」と絶賛している。HealthBookも、同様の方法で計測するのだろうか。

Appleは睡眠サイクルの世界的権威のRoy Raymann氏を雇用している。このことから、この分野でも相当なイノベーションが期待できるのではないかと思う。

こうしたカテゴリーとは別に、Healthbookには緊急時に個人情報を表示する「エマージェンシーカード」も搭載されている。エマージェンシーカードに記載されているのは、氏名、生年月日、常用薬、アレルギー、体重、眼の色、血液型、臓器ドナーかどうか、などの情報。緊急時にこうした情報を医療関係者に提示できるようにすることは大事だが、どのようにすれば医療関係者だけにこのような個人情報を開示できるようになるのだろうか。気になるところだ。

そして一番気になるのが、これらの情報を入力するためにどのようなデバイスと連携するのか、というところだ。歩数はiPhoneのM7チップで取得できるとして、そのほかの健康データを入手するのには、サードパーティのアプリや機器と連携しなければならない。

Bluetooth Low Energy(BLE)を使う機器ならAppleの審査なしでiPhone周辺機器を作ってもいいようにしたのは、健康データを所得する周辺機器をサードパーティに数多く作ってもらいたいから。Appleの思惑通りにiPhoneとBLEで連携するウエアラブルデバイスの開発ラッシュが続いている。

またApple自体が新しい機器を開発してくるかもしれない。それはうわさになっている時計型ウエアラブルのiWatchかも知れないし、複数のデバイスなのかもしれない。

ウエアラブル機器の用途の本命は、ヘルスケア。ウエアラブル機器が今後多数登場する中で、AppleはHealthBookを健康データの集積プラットフォームにしようとしているのは間違いない。

お知らせ:まさにこのテーマで少人数勉強会を開催します。
激変するApple戦略の先を読め!医療、自動車、etc・・のビジネスチャンス【TheWave湯川塾21期塾生募集】