ロボットと人工知能が、大きく進化するフェーズに入った。

そう断言できるのは、3つの根拠があるからだ。

1つはデータ量が爆発的に増え始めたから

データ量が多ければ多いほど、人工知能は「人間のような」働きが可能になる。「こういう場合に人間はどう受け答えするか」というデータがあれば、それに近いことをすることで、コンピューターはより「人間らしく」振る舞えるからだ。

スマートフォンという高性能コンピューターを一人一台持つ時代になったことで、人間のデータが無数に蓄積されるようになり、その結果、人工知能はより「人間らしい」受け答えが可能になろうとしている。

カーネギーメロン大学のTome Michell氏は「コンピューターはこれまで人間の言語をほとんど理解できなかったが、この10年でかなり理解できるようになるだろう」と2年前に語っている。今、まさにわれわれは劇的進化のまっただ中にいる。

2つ目の根拠は、IBMの人工知能「Watson」をサービスとして利用できるようになったから。

米IBMは9月16日にWatsonを活用した分析サービス「Watson Analytics」を発表した。高額コンピューターを所有しなくても、使用した分だけの料金をIBMに支払うだけで、だれでもがこの人工知能を利用できるようになった。これからはスマートフォンのアプリであっても、バックエンドにIBMの人工知能が動いている、ということが普通になってくるだろう。

IBMはニューヨークの癌専門病院と共同でWatsonを用いた医療向け人工知能の開発を薦めている。患者の個人的症状、遺伝子情報、家族及び本人の病歴、関連しそうな60万件の医療エビデンス、150万人の患者記録、200万ページ分の医療論文を記憶し検索することで、的確な診断結果と、一人ひとりに最適の治療方法を提案できるようになるのだという。急速に進化する医療の世界で、人間の医師が最新の治療法を知り尽くすことが難しくなってきている。大量のデータを処理できる人工知能に、判断を任せたほうがうまくいく時代になろうとしているわけだ。

シリコンバレーの著名投資家 Vinod Khosla氏はこうした医療向け人工知能の普及でいずれ「平均的な能力の医師は不要になるだろう」と語っている。「医療の90%から99%は医師の診断よりも、優れていて安価な方法で対応できるようになる」という。ウエアラブル機器で日頃の健康データの推移をモニターし、それをベースに人工知能に接続されたスマートフォンアプリが、最適の予防法、治療法を提案する時代に向かっているわけだ。

そして同様のことが今後、いろいろな領域で起ころうとしている。

3つ目の理由は、ロボットが低価格になり汎用性を持ち始めたからだ。

コンピューターが社会に革命的な影響を与え始めたのは、パソコンが普及し初めてからだと言われている。パソコンが登場するまでのコンピューターは、高価で専門に特化したものだった。それがプログラムを変えるだけでどのような演算処理も可能になり、汎用機(メインフレーム)と呼ばれるようになった。その後、コンピューターは低価格化が進み、パソコンと呼ばれるようになった。そしてパソコンの低価格と汎用性が、オフィスの業務を大きく変え、社会を変えていった。

同様に、ロボットもこれまでは工場内の特定の動きに特化した高価なものが中心だった。それが低価格になり始めた。ソフトバンクが発売するPepperは約15万円。これまでのロボットとは1ケタも2ケタも安い。しかもプログラムを自由に書き換えられる。

Rethink Robotics社の双腕ロボットBaxsterも約30万円と低価格。手を持って動かすことで、手の動かし方を教えこむことが可能で、コーヒーメーカーを操作してコーヒーを沸かし、コップを設置してコーヒーを注ぐことができる。この低価格と汎用性で、広い範囲の職場での利用が期待されている。

こうしたロボットの利用が進めば、大量生産でさらなる低価格化や高性能化が進むものとみられている。正のスパイラルに入るわけだ。パソコンが正のスパイラルに入り一気にオフィスに普及したように、ロボットが今まさに、正のスパイラルに入ろうとしているわけだ。

人工知能やロボットは今後20年間で、先進国の半分近くの職を奪う結果になるという予測がある。大変な脅威である。そして時代の変化は、チャンスでもある。

われわれはこの時代の変化を目前に控え、どう対処すればいいのだろうか。人間はロボットと、どう付き合っていけばいいのだろうか。ロボットとの付き合い方に、未来の方向性がかかってきている。





【今期の見どころ】
ご好評をいただいています少人数制勉強会TheWave湯川塾では第24期のテーマを「人工知能、ロボット、人の心」と題し、直前に控えたこの時代変化について徹底的に議論したいと考えています。今回の講師はロボットビジネスの最先端のオールスターが集まった感じです。

まずは元日本経済新聞記者でシリコンバレーに長年在住しロボット産業の取材を続けてきた影木准子氏に、今日のロボット産業の概要を話していただきたいと思います。Googleの動きなどを間近で見てきた元ジャーナリストが、今を、未来をどのように見ているのか。興味しんしんです。

続いての講師は、非公開です。あの企業の、あの事業の担当者が今、何を考えているのか。オフレコを条件に自由に語っていただきたいと思います。

11/26日は、日本IBMから人工知能Watsonの担当者の元木剛氏に講義にきていただきます。米国のIBMは、Watsonを従量制でだれもが利用できるサービスとして提供し始めました。これからバックエンドで人工知能が動いているアプリやサービスが次々と登場してくるのだと思います。そして当然、日本IBMも同様のサービスを日本語で提供する準備を始めているはず。正式発表前にも関わらず、今回は特別にご協力いただけることになりました。

12/1は、ロボット研究の第一人者、大阪大学の石黒浩教授にお願いしました。ご本人からは「多分だいじょうぶ」という微妙なOKをいただきました(笑)。石黒教授とは、ロボット自体のことお話いただくよりも、ロボットが人間の心をどう変えるのか、社会の価値観をどう変えるかなどといった側面で、いろいろと議論をふっかけたいと思っています。

とてもワクワクする講師陣です。


【開催日時予定・講師予定】(未だに少し流動的です。変更になる可能性がありますので、ご注意ください)

11/4 (火) 湯川鶴章
11/10(月) 影木准子氏(カワダロボティクス)
11/18(火) 某社ロボット事業責任者(氏名・所属非公開)
11/26(水) 元木剛氏(IBM)
12/1 (月) 石黒 浩氏
12/8 (月) 湯川鶴章


【場所】渋谷のコワーキングスペースco-ba (予定。変更になる可能性があります)


【オンライン受講について】
東京近郊在住者でなくても受講できるように、テレビ会議システムを使ってリアルタイムでのオンライン受講の体制を取りたいと考えています。 ただしネット回線の混雑状況など主催者側で制御できない問題もありますので、快適な受講環境を保証するものではありません。その旨ご了承の上、お申し込み頂けましたら幸いです。受信障害が発生したときのために、記録用音声データを復習用にお渡しする準備はしています。

【受講料】
15万円(税別)
個人として参加される場合は、3回、5回、15回の分割払いも可能です。ご相談ください。

【定員】
15名

【対象者:以下のような方を念頭にカリキュラムを組みました】


・企業経営者
・経営企画担当者
・起業志望者

【TheWave湯川塾運営方針】


・常に時代の半歩先のテーマを取り上げる
 ソーシャルメディア、Facebook、評価経済社会、LINE、WeChat、Makers革命など、どこよりも早く旬なテーマを先取りしてきました。
・最高の講師陣を迎える
 それぞれの業界のトップレベルの講師をこれまでお迎えしてきました。テーマが最先端過ぎて、講師の方々も情報交換する相手、議論する相手が不足しているのでしょうか、有名な講師でも喜んでご参加いただけるようです。
・レベルの高い塾生を集める
 比較的高額の受講料がフィルターになり、豊富な知識と熱意のある方が塾生として集まる形になっています。また毎期OB枠を設け、塾生OBの中から該当テーマに詳しいOBの参加を呼びかけています。
・議論こそがメインディッシュ
 15人の少人数制を取っているのは、議論こそが重要だと考えているからです。実は毎回テーマが最先端過ぎて、講師でさえすべての答えを持っているわけではないんです。答えは、講義の中ではなく議論の中で見つかることが多いようです。講師によっては講義を一切行わず、2時間すべてを質疑応答と議論にあてることもあります。また講義のあとは毎回、懇親会を行い、そこでも議論が行われます。懇親会は自由参加ですが、お酒が入ることでより本音ベースの議論が行われることもあるようです。懇親会へのできる限りの参加をお勧めします。
・「コンテンツ」より「エネルギー」
 情報は、インターネットを通じて無料で手に入るようになりました。こうした時代において、情報やコンテンツよりも価値を生むのが前向きなエネルギーだと思います。講師や塾生仲間の前向きでポジティブなエネルギーと交わることで、自分もより元気になれるのだと思います。元気は元気を増幅させます。そうしたエネルギー増幅の場を目指します。
・「TechWave塾」を「TheWave塾」に名称変更したのは、わたし自身がブログメディア「TechWave.jp」の運営から離れたのと、「Tech」という言葉が時代に合わなくなってきたと考えているからです。ここ15年ぐらいはインターネットの普及を背景にTechが時代変化の推進力になってきたのですが、ネットが社会インフラとして定着した今後は、Techをベースにしながらも、その上での個人のクリエイティビティが時代変化の推進力になるのだろうと考えています。ですので「TechWave」から「Tech」を外し「TheWave塾」とすることにしました。

【湯川鶴章・略歴】


 ITジャーナリスト。学習コミュニティTheWave代表、TheWave湯川塾・塾長。株式会社あしたラボラトリー・チーフストラテジスト  1958年和歌山県生まれ。大阪の高校を卒業後、渡米。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立、ブログメディアTechWaveを創業。2013年から、編集長を降り、新しい領域に挑戦中。  著書に「未来予測 ―ITの次に見える未来、価値観の激変と直感への回帰」(2013)、「次世代マーケティングプラットフォーム」(2008年)、「爆発するソーシャルメディア」(2007年)、「ウェブを進化させる人たち」(2007年)、「ブログがジャーナリズムを変える」(2006年)。共著に「次世代広告テクノロジー」(2007年)、「ネットは新聞を殺すのか」(2003年)、「サイバージャーナリズム論」(2007年)、「閉塞感のある君へ。こっちへおいでよ。」(2013年)などがある。


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