身に付けるモノを含む、あらゆるモノがインターネットに接続される「IOT(Internet of Things、モノのインターネット)」の時代がもうそこまできている。パソコン全盛時代、スマートフォン全盛時代とは違った業界勢力図になることは間違いない。まだ予断を許さな状況だがこの段階であえて大胆予測すれば、パソコン全盛時代にMicrosoftが手にしたような影響力を、IOT時代にはAppleが手にするのではないかと思っている。その理由を簡単に述べたい。
▶OSの統一性ではAppleのほうが上
パソコン全盛時代にはパソコンの基本ソフト(OS)の圧倒的な市場シェアを手にしたMicrosoftが絶対的な影響力を手にした。スマートフォン全盛時代の今、スマホのOSの最大のシェアを握るのはGoogleである。
IOT時代の初期段階において、ウエアラブル機器やIOT機器は、スマートフォンと連携したりスマートフォンで制御できるようになるものが中心になるとみられる。なので少なくともIOTの初期段階では、スマホOS市場の覇者であるGoogleが影響力を持つはずである。
なのにGoogleではなくAppleが影響力を持つようになると僕は考えている。その理由は、GoogleのスマホOSであるAndroidが、実際には幾つも派生OSが存在し、名称は同じAndroidでも、中身が統一されていないからだ。
またGoogleが開発したAndroidをそのまま搭載しているスマートフォンでも、最新のOSにバージョンアップされていないものが多い。メーカーや通信キャリアはスマホを販売したときに売り上げとなる。アフターサービスであるOSのバージョンアップをしても売り上げにつながらない。なのでどうしてもバージョンアップに消極的になりがちだ。ここが主導権を通信キャリアに渡していないAppleと大きく異る点だ。
名称でシェアを見ればAndroidが優勢が、実際のOSのバージョンで見ればiPhoneのOSのほうがシェアは高い。特に先進国ではそうだ。予防医療、スマートホームといった先進国を中心とした消費者向けIOTの領域では、Appleが圧倒的に強くなるのは間違いない。
▶医療、スマートホームでGoogleは後手に
スマートフォンとの連携を考える各業界の関係者が、AndroidではなくiPhoneを重視しているのは、周辺機器の数を見ても明らかだ。特に医療関係のデバイスでスマートフォンと連携できるデバイスやウエアラブル機器は、iPhone向けが圧倒的に多い。
そんな中、Appleは健康、医療に関する情報を格納できるヘルスケアと呼ばれるアプリをiPhoneに標準搭載してきた。各種デバイスがiPhoneと連携して、このアプリにデータを転送できる技術仕様も公開した。
Googleも同様のアプリを発表しているが、技術仕様はまだ公開されていない。
Appleはまた家庭内のデバイスをiPhoneで制御するための技術仕様「HomeKit」を公開した。いわゆるスマートホームと呼ばれる領域に進もうとしているわけだ。サーモスタットや電球、ガレージドアオープナー、カギなど製品の米国内の主要メーカーのほとんどが、Appleのスマートホームの技術仕様へ準拠する意向を明らかにしている。
Appleが考えるスマートホーム構想は、Appleのセットトップボックス「Apple TV」がハブになる。来年発売が予定されているスマートウォッチ「Apple Watch」に対して音声で「電気を暗くして」「エアコンの温度を下げて」などと命令すると、その命令がApple TVを経由して、電球やエアコンに送られる仕組みになるようだ。
Googleもスマートホーム構想を発表したことがあるが、技術仕様はまだ出てこない。スマートホーム事業は、Googleが買収したサーモスタットのメーカーNestに担当させようという考えなのかもしれない。
いずれにせよ現時点ではAppleのほうが用意周到。予防医療、スマートホームというIOTの最初の領域で、Googleは後手に回っている印象を拭えない。
▶儲ける気がない相手には絶対に勝てない
スマートフォンの高いシェアを持っていること、用意周到に準備を進めてきたこと。この2つがAppleが先行する理由だが、Appleがこのまま勝ち逃げるのではないかと僕が思うのは、Appleはプラットフォーム事業で儲ける気がないからだ。
AppleのCEOのTim Cook氏は電子決済システムApple Payの発表の際に「先行する電子決済の仕組みを徹底的に調べた。何が理由で普及していないのかを考えた。それは事業者自身が儲けようとしたからだということが分かった」と語っている。
プラットフォームや業界標準を提唱する企業には「業界のために」「ユーザーのために」という建前を前面に出すものの、実は自分たちが儲けたいという下心が見え隠れすることがある。この下心が見えると、ほかの企業はそのプラットフォームや業界標準になかなか乗ってこない。
このことに気づいたAppleは、プラットフォームや業界標準で一切儲けようとしない。
実際にAppleの元社員にこの件で話を聞いたことがあるが、同社は建前ではなく、本当にそう考えているようだ。
とは言っても赤字で運営していては、プラットフォームは存続できないので、運営の実費分だけを課すようにしているようだ。
iTunesでもAppleはコンテンツホルダーに対して利用料を課しているが、決算資料を見る限り、その売り上げは運営コストをわずかに上回る辺りを推移している。儲ける気がないわけだ。
こうしたプラットフォームで儲けなくても、iPhoneは利益率を高く設定してあるので、iPhoneが売れさえすれば十分過ぎるくらいに儲かる。
儲ける気がない相手と戦っても勝てるはずはない。これがAppleが予防医療、スマートホームでこのまま勝ち逃げる、と僕が考える最大の理由だ。
▶SWIFTとWatchで開発者が増える
そして4番目、トドメの理由は、Appleがこのほど発表した開発言語SWIFTにある。僕自身は開発者ではないので、SWIFTがどの程度優れた言語なのかは分からないが、友人の開発者の間にはSWIFTを絶賛する人が多い。
今年のAppleの開発者向け大規模イベントWWDCでは、参加者の大多数がWWDCに初めて参加する開発者だった。若く新しい層がAppleの開発者コミュニティに流れ込んでいるわけだ。
そこに発表されたのが、新しい開発者言語SWIFT。友人の開発者によると、非常に簡単な言語で、若者なら1週間程度で使えるようになるという。
新しい層の開発者たちはSWIFTを使ってアプリを次々と開発してくることだろう。特にApple Watch向けアプリは画面が小さい分だけ開発が容易。SWIFTを使った開発の手始めとしてWatchアプリを開発する若者が続出するのではないかと見られている。そしてWatchでつかんだ開発のコツは、iPhone向けアプリにも応用できる。予防医療やスマートホームといった領域でも、SWIFTでアプリが次々と登場してくることだろう。思いもよらない用途のアプリが登場してくるかもしれない。
アプリの多さは、Appleのプラットフォームをさらに強固なものにするだろう。
(1)先進国での実質的シェアの高さ、(2)ヘルス、スマートホーム向けで先行、(3)儲ける気がない(4)新しい開発言語。この4つの理由で、少なくとも先進国の消費者向けIOT時代の最初のフェーズは、Appleが覇者になるのは間違いないだろう。
この業界勢力図で、どこにビジネスチャンスがあるのだろうか。予防医療、スマートホームの次の覇権争いの領域はどこになるんだろうか。
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2014年10月15日
AppleがIOT時代のMicrosoftになると断言できる4つの理由
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