脳を模した人工知能の研究領域に研究者が集中し始めたことで、人工知能が急速に進化し始めている(関連記事「人工知能が急に進化し始めた」)。テクノロジーが急速に進化すると、テクノロジー業界の勢力図が塗り変わる可能性がある。スマホ+クラウドの次のパラダイムは、だれが覇者になるのだろうか。


▶Google、Facebook、中国Baiduも

 次のパラダイムの覇権に最も近い位置にいると見られているのがGoogleだ。同社は、2014年1月にイギリスの人工知能系ベンチャーDeepMind社を推定5億ドルで買収したほか、10月にはオックスフォード大学発ベンチャーのDark Blue Labs社とVision Factory社の2社を買収し、両社の主要研究者7人をDeepMind社に移籍させている。

 DeepMind社はどれだけすごいのか。同社の技術に触れたカリフォルニア大学スチュアート・ラッセル教授をして「DeepMind社の技術は、私たちが考えていた技術的レベルをはるかに上回る予想外のもので、大きなショックを受けました。私を含めて多くの人が思考停止に陥ったと思います」と言わしめるほどだ。(関連記事

 DeepMind社の買収をめぐってはFacebookがGoogleと最後まで競い合っていたと言われるように、Facebookも人工知能に力を入れている。Facebookは昨年末にニューヨーク大学のYann LeCun教授を雇用し、人工知能研究所を設立している。同研究所は、Facebookの本社のあるカリフォルニアと、ロンドン、それとニューヨーク大学のすぐ隣の3カ所に拠点を設けている。

 そしてIBMも「人工知能に社運を賭けている」(同社関係者)というほど力を入れているし、「Microsoftもこの分野には古くから力を入れている有力企業です」と、この領域に詳しいビジョン&ITラボの皆川卓也氏は言う。

 また中国企業も人工知能に力を入れ始めた。中国のネット検索大手Baidu(百度)は約3億ドルを投じ、5月にシリコンバレーに人工知能の研究所を開設した。昨年、北京に開設した人工知能研究所と合わせて、人工知能研究者として有名なスタンフォード大学のアンドリュー・ング氏が統括するのだという。

 日本企業の動きはどうなんだろう。某テクノロジーコンサルタントは「日本の大手企業の動きは無視していいです。ウォッチする必要はまったくありません」と言い切る。

 人工知能に関しては日本も「第5世代コンピューター」という国策プロジェクトがあったおかげで研究者の層は厚いのだそうだが、問題は研究予算。国立情報学研究所の市瀬龍太郎准教授は「Googleとかは日本の大学とは桁違いの予算をかけて研究をしています。そこと伍していくのには、どうしても限界があるように思います」と語ってる。

 早稲田大学政治経済学の井上智洋助教は、雑誌エコノミストに「政府は人工知能の研究開発の支援を」という記事を寄稿している。人工知能は社会のインフラ的存在になり、日本の生産性を劇的に上昇させる可能性があるから、というのがその理由だ。


▶データを集める仕組みが大事

 こうした状況で、果たして日本は、英、米、中国に対抗できるのだろうか。

 ただ基礎研究で後塵を拝していても、実際のビジネスで影響力をつかめればいいという意見がある。「大事なのは、人間に対するユーザーインターフェースの1枚目を取るということなんです。2枚目、3枚目と距離ができるほど収益は小さくなる」とソフトバングロボティクス株式会社の林要(はやし・かなめ)氏は言う。

 インフラを押さえた方が強いのか。ユーザーに近い場所を押さえた方が強いのか。よく議論になるテーマだ。

 ただ携帯電話事業に関する限り、インフラとなる通信網を提供するキャリアの状況は厳しくなる一方だ。各社とも同じような携帯電話端末を扱っているので、競争できるのはサービスの質と価格だけ。どうしても価格競争で、収益を圧迫する結果になってしまう。「キャリアは単なる土管になっていく」。そんな意見が業界関係者から聞こえてくる。

 一方で、ユーザーと直接接点のある企業は強い。最近ではLINEがモバイル決済サービス「LINE Pay」を始めるなど、ユーザーとの接点を活かして新たなサービスを次々と生み出している。ユーザーに一番近いところ、林氏の言う「1枚目を取っている」ことからくる強みだ。

「Appleにしろ、Google、Facebookにしろ、みんな1枚目を取る競争をしているんです。ソフトバンクも今度こそ、そこを取りに行くべきじゃないかって考えています」と林氏は言う。

 検索の「1枚目」はGoogleが手にした。ソーシャルはFacebook、スマートフォンはApple、Googleが手にした。人工知能ではソフトバンクが「1枚目」を取りたい。ソフトバンクが、世界に先駆けて人型ロボットpepperを家庭向けに本格投入しようというのはこのためだ。

 pepperは人の心を癒やすコミュニケーションロボット。人を喜ばせるにはどんな情報がいいのか、どんな会話がいいのか、というデータがpepperに蓄積される。またpepper一体、一体から送られてくるそうしたデータは、クラウド上で集計される。それをベースにクラウド上の人工知能が順調に学習を進めていけば、他社に真似のできない人工知能が出来上がるはず。この人工知能を作るために、破格の価格でpepperを発売しようとしているわけだ。

 米IBMはソフトバンクロボティクスと提携して、pepperのデータ処理に力を貸すことになった。「データがないとIBMの人工知能は賢くならない。IBMはそのことを理解しているんです」と林氏は言う。

 東大発の有力ベンチャー、プリファードインフラストラクチャー社の岡野原大輔副社長も、データを集める仕組みを持つ少数の企業が影響力を持つようになると考える一人だ。

 「今のネットもオープンな仕組みとは言われますが、Googleが検索ユーザーの動きをほとんど把握しています。Googleを使えなかったら、ほとんどの情報にリーチできない状態です」「同様にこれからも、オープンだけど事実上そこを全部コントロールする仕組みができるのではないかと思います。そこにはネットワーク効果が働くので、強いところがどんどん強くなると思います」と岡野原氏は語る。

 次のパラダイムでは、少数の覇者がすべてを牛耳るようになるというわけだ。

 具体的にはどのような仕組みなのだろうか。他社との秘密保持契約があるらしく岡野原氏からは多くを語ってもらえなかったが、ネットワークにつながった無数のデバイスから集まったデータを人工知能が取り込むことで、人工知能がどんどん学習していく仕組み作りを考えているようだ。

 そして、あらゆるデバイス、あらゆるアプリの後ろには人工知能がつながるようになる。そのとき「中心になるのは、今の大手ではないと思いますよ。新たに勃興してくる会社が新しい時代の中心になるのだと思います」と岡野原氏は予測する。「過去のコンピューターの歴史を見てもパラダイムが変わるたびに新しいプレイヤーの時代になっています。今のスマホ、クラウド時代の覇者は、今の成功に縛られて新しいことができないんじゃないかと思います」。

 次の時代を見据えて、勇者たちが動き出した。ワクワクする時代の幕開けだ。


【蛇足、オレはこう思う】
人工知能に関して、何人かのキープレーヤーを取材してみて、おもしろいことに気づいた。次の覇者として、だれもAppleの話をしないのだ。もちろんスマホ時代を築いたという功績に対してのリスペクトはかなりのものなのだが、人工知能の覇権争いの話をしていても、だれもAppleを意識していない。

 Googleの話は出る。しかしGoogleにしても、それほどは神経質にはなっていない模様。というのは、買収は繰り返しているものの、Googleとしてまだ新しい動きが出てこないからだ。最近では、Googleのロボットの責任者が退社したというニュースがあった。Google内部で何が起こっているんだろう。「有力ベンチャーを買収することで天才を数多く雇用したんだけど、天才は協調性がないことが多いので、それぞれがバラバラに動いてまとまりが取れないのではないでしょうか」。そう分析してくれる関係者もいた。

 業界関係者の間では、家庭用ロボットではまずはGoogleが動くと見られていたのに、ソフトバンクに先を越された。このととも、原因がその辺りにあるのかもしれない。まったくの憶測だけど。

 やはり、新しいパラダイムは、新しいプレイヤーが中心になるのだろうか。

yukawa01


【お知らせ】
この記事はBLOGOSメルマガ「湯川鶴章のITの次に見える未来」の無料公開分の記事です。

人工知能をテーマにしたTheWave湯川塾の講師を、注目のベンチャー、プリファードインフラストラクチャー社の西川徹代表取締役が引き受けてくれることになりました。ビジョナリーとして評判の高い西川氏がどのような未来を描いているのか。じっくり議論してみたいと思います。
湯川塾25期の塾生募集を始めました。
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また24期「人工知能、ロボット、人の心」での議論をベースにした電子書籍の出版を近く予定しています。またその出版記念講演会を2015年1月21日(水)夜に新宿で開催する予定です。スペシャルゲストとしてソフトバンクでpepper事業を担当されている林要氏にご登壇いただくことも予定しています。詳細はこのブログで追ってお知らせしますので、ぜひお越しください。

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僕の仕事のプロセスは次のような感じで行っています。
まず取材のメモや読書、ネットで収集した情報のメモを、すべてオンラインサロンにリアルタイムに公開します。
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メルマガの記事や湯川塾での議論をベースに、最終形として本として発表したりもします。