経済学の用語で「汎用目的技術」というのがあるそうだ。英語でGeneral Purpose Technologyといい、GPTと略される。その定義は「あらゆる産業に影響を及ぼし、また補完的な発明を連鎖的に生じさせる技術」。早稲田大学政治経済学部の井上智洋助教によると、人工知能が21世紀の汎用目的技術になり、経済を牽引する可能性があるという。

井上氏によると、第一次産業革命のときの汎用目的技術は、蒸気機関。そしてその蒸気機関という技術をベースに、次々と関連する技術が発明されることになる。蒸気ポンプ、蒸気機関車、蒸気を動力とした織機、蒸気船などがそうした「連鎖的発明」だ。

第二次産業革命での汎用目的技術は、自動車のエンジンのような内燃機関と電気モーター。それらの技術をベースに、自動車や、飛行機、洗濯機、掃除機などが次々と発明されていった。

第一次産業革命は英国で発祥し、第二次産業革命は米国が牽引した。それぞれが補完技術を連鎖的に生んでいくわけだから、汎用目的技術を牽引した国や地域の経済が発展するのはある意味当たり前の話だ。経済成長率のグラフを見ても、そのことがはっきりと読み取れる。汎用目的技術を活用した国や地域が、その後何十年かの経済の中心になるわけだ。

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(出所)David Weil "Economic Growth"のOnline Resources

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(出所)David Weil "Economic Growth"のOnline Resources

さて第三次産業革命の汎用目的技術は何なのか。井上氏によると学者の間でもまだ意見が分かれるらしいが、一番支配的な意見は、半導体やコンピューターなどの情報技術(IT)だという。この汎用目的技術を生んだ米国、特にシリコンバレーは今、世界の産業の中心になっている。このことに異論を持つ人はいないだろう。

そして第四次産業革命の汎用目的技術は何になるのだろう。井上氏は「汎用人工知能や汎用ロボットになるのではないかと思っています。ここはまだ経済学者の間でほとんど議論にもなっていない状態ですが」と語る。ただ「汎用目的技術の発明自体は、経済に大きな影響を与えない。それを活用し普及させることが、経済成長につながるんです」。人工知能のコア技術に関しては欧米に先行され始めた感があるが、活用、普及を急げば日本の経済成長につながる可能性があるという。

新進気鋭の人工知能の研究者で東京大学准教授の松尾豊氏は、人工知能の今後の進化と活用できるであろう業種を下のようなグラフにまとめている。確かに人工知能は広範な分野に応用されそうだ。

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(出典:松尾豊氏のプレゼンテーションファイルから)

松尾氏によると、人工知能は今後、まるで人間の赤ちゃんが学んでいくように進化していくのだという。

現時点では、写真などの画像を認識できるようになってきた。多数の猫の写真を読み込ませることで、猫にはどのような特徴があるのか、人工知能が自分で猫の「概念」を獲得することができる。

次に音声やテキストなどの情報も自分で学習できるようになると、広告や、マーケティング、画像診断、防犯、監視などの領域に人工知能が活用されるようになる。

その後、人工知能による自律的な行動計画が可能になれば、自動運転、農業の自動化、物流などにも、人工知能やそれを搭載したロボットが使われるようになるという。

2020年から2025年には、行動による抽象化や言語とのヒモ付けが可能になる見通しという。

赤ちゃんは手当たり次第、周りのものを口の中にいれて、食べられるものとそうでないものを学習していく。概念をつかむことができれば、あとはそれに言語を紐付けするだけ。食べられるモノには「まんま」という単語、おもちゃの車には「ブーブー」という単語が紐付けられる。

同様に、このころになると、ロボットが壊れやすいモノを認識できるようになり、やさしく接することが可能になる。そうなれば家事や介護の領域にもロボットが活用されるようになるだろう。概念に言語をヒモ付ければ、翻訳や海外向けECにも人工知能が応用されるようになるという。

そして2030年ころになれば、言語を理解できるようになった人工知能は、どんどん知識を蓄えていく。そうなれば教師や秘書など、非常に複雑な判断を必要とする業務などでも、人工知能は人間並みのパフォーマンスを上げることが可能になるという。

松尾氏は「このグラフはあくまでも技術的進化の目安で、社会変化はもっと時間がかかるかもしれない」としながらも、井上氏同様に、人工知能が「新たな産業革命を生む可能性がある」と指摘する。

日本はもともと人工知能の研究者の層は厚い(関連記事:150億円あれば人工知能で日本にもチャンスが)。活用、普及で先陣を切ることができるのかどうか。注目していきたい。






yukawa01


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