人工知能やロボットが普及していけば仕事がどんどんなくなっていくと言われている。20年後には今日の職業の半分はなくなるのだとかいう話もある。そのころの働き方ってどんなものになるのだろう。
未来の働き方をテーマにした雑誌記事を読んだことがある。都会と田舎の2拠点で生活する人や、お金を稼げないようなプロジェクトを仕事と考える人が増える、というようなことが書いてあった。
ちょっと待てよ。僕の周りには、そういう生き方の人が既に数多く存在しているぞ。
「未来は既にここにある。ただ均等に分配されていないだけだ」。SF作家のウイリアム・ギブソンは言う。恐らく僕の周りには、未来を先取りする人が平均分布以上に存在するのだろう。
そんな中でも菱木豊さん(32)の生き方を見ていると、「確かにこの人の生き方こそが未来の生き方かも」と思わせるものがある。彼の生き方のどの部分がそうなのか、お話したいと思う。
▶ポイント1。お金をもらえるかどうかで仕事を区別していない
菱木さんは、僕が主催する少人数制勉強会TheWave湯川塾の事務局を手伝ってくれている。湯川塾で、菱木さんが自己紹介をするのを何度か聞いたことがある。「仲間と株式会社omoroという会社をやっています。株式会社omoroは、おもしろいことを、おもしろい仲間と、おもしろくやっていくという会社です!」と元気いっぱいに話す。
なんなんだ、そのおもしろいことをする会社って、と聞くと「おもしろいことなら何でもする会社です」と答える。
・・・答えになっていない。
株式会社omoroがやっている事業(?)の様子がFacebookのニュースフィードに流れてくることがある。「フェス」と銘打って、どこかの高原で、水風船の投げ合いっこをやっていた。「子供たちが大喜びだった」と書いてある。それが事業なのか?儲かっているのか?
「いや、イベント系の仕事は、まったく儲けを目指していないですね」と笑う。じゃあ、どんな仕事をして儲けてるの?ほかの事業は、儲かる仕組みなの?
「はい、儲かる仕組みです。今、企業向けツールを開発中なんですが、それはお金が儲かるようになってます」
そのツール開発は、おもしろからやっているのか?お金になるからやっているのか?どっち? 「半分半分ですね。おもしろいが半分、儲かるのが半分」。
何それ。ほかには?
「ケーキ屋さんのブランディングのお手伝いをしています。それはレベニューシェアで、売り上げが上がれば、その儲けの一部をもらうという枠組みです」。
それって儲かるの?生活できるの?
「株式会社omoroの収益だけでは、食べていけないっすね、まだ」。
じゃあどうしてるの?実家に住んでいて独身だから、それほどお金はかからないかもしれないけど、旅行とか楽しそうなことをいっぱいしているように見えるけど。いろいろ根掘り葉掘り聞いて出てきた答えが「個人で不動産投資のコンサルティングをやっているんです。そこでの儲けで食べてる感じですね」。
おいおい、早く言えよ。といういことはそっちが本業だよね。
「いや、不動産コンサルの仕事は徐々に減らしていこうって思っています。
何それ。どうやらお金を稼ぐ仕事に対して、アイデンティティをまったく置いていないようだ。
じゃあどんな風な生活しているの?典型的な1週間のスケジュールを教えて。
「えーと、まずは月曜日に起きて開発案件の資料を作って、夜は湯川塾の事務局の仕事があって、火曜日は、えーと、えーと。何をしてるんだろう。自分でも何やってるか分からない。ハハハ」。
不動産コンサルと株式会社omoroと、湯川塾の事務局と、ほかにはどんなことやってるの?
「あとはカマコンバレーの仕事と、サシモニ。あとは人と会ってます」。
カマコンバレーとは菱木さんの地元である鎌倉をITの力でよくしようというボランティアのプロジェクトで、もちろん無給。カマコンではどんなことやってるの?
「いろいろですね。今昔写真っていって、昔の鎌倉の写真と今の写真を照らし合わせるプロジェクトとか、あとカマコンの定例会をよりよくするためのプロジェクトリーダーとかやってます」
サシモニとは、一対一で朝に話を聞くという菱木さんの個人プロジェクトで、多いときは週に2,3人の話を聞くという。それを記事にまとめて彼のブログにアップしているのだが、それって結構な仕事量のはず。元気な人の話を広めると元気な人が増えるのではないかと思ってやっているようだが、これももちろん無給。
どのプロジェクトにどの程度の時間を費やしてるって聞くと、omoroの仕事(今のところほぼ無給)が40%、サシモニ(完全無給)20%、カマコン(完全無給)10%、湯川塾(完全無給。ありがと!)5%、投資コンサル(有給)5%、「残りは人と会う仕事」らしい。
人と会うって、飲み会ってことだよね。
「そうですね。毎晩飲んでます。ハハハ」。
仕事を「お金を儲けること」と定義すれば、仕事をしている時間は、全体の5%前後だけ。つまりほとんど遊んでいる、とも言える。
実は僕の周りにはこういう人が多い。僕が主催する少人数勉強会TheWave湯川塾は数人の事務局と数人の書記チームで運営されているんだけど、僕以外は全員無給(ありがと!)。事務能力のない僕のために秘書業務をしてくれている「まなみん」こと鈴木まなみさんも無給。塾のビデオ業務を担当してくれている「タニソー」こと谷口健吾さんは、過去に一度も欠席したことがない。「仕事だと思ってやってますから」と言うが、彼も無給。書記チームを率いる奥山浩通さんは、本業は不動産業。音声起こしに相当の時間を費やしてくれているが、無給。ひどいな、オレ・・・。
▶ポイント2。おもしろいと思うことを全力でおもしろがる
奥山さんが音声をテキストにしたファイルを送ってくるときに「いやあ、めちゃくちゃおもしろかったですね」というメッセージが追加されていることが多い。最近の塾では人工知能をテーマにした講義が多いが、新しい技術の話が出ていると、奥山さんは音声を起こすだけではなく、自分でさらに詳しく調べているようだ。最近では、トポロジカル・データ・アナラシスと呼ばれる技術が話題になったのだが、早速詳しく調べていた。恐らく日本一テクノロジーに詳しい不動産屋さんだと思う。本業には関連しそうもないのに、自分がおもしろいと思うことを全力でおもしろがってる。
同じく事務局を手伝ってくれている「片ちゃん」こと片山啓吾さんは、地元東村山市の町興しを「街わかし」と呼んで、かなりの時間を費やしているようだ。商工会議所の青年部の部長をやったり、周りの人が急に踊りだす「フラッシュモブ」を仕掛けたり、地元のヒーローキャラクター「ヒガシムラヤマン」の中の人として子供たちを喜ばせたり・・・。そうした「仕事」は、もちろん無給だ。
菱木さん、奥山さん、片山さんたちの「おもしろがり方」は半端ない。全力でおもしろがっている。
そして全力でおもしろがっていると、幸運の扉が開くことがある。おもしろいプロジェクトを通じて、お金になる仕事が入ってくることがある。奥山さんは、塾で出会った仲間と東南アジアでの仕事に乗り出した。
ただそうした「儲け」はあくまで副産物。だれもそれを求めて「全力でおもしろがっている」わけではない。ただ単に「おもしろい」から「おもしろいことに全力で取り組んでいる」だけのようだ。つまり彼らは、金銭という尺度でモノゴトをまったく見ていない。尺度は「おもしろいかどうか」。そしておもしろいことには、寝食を忘れるほどに熱中している。
▶ポイント3。バランス感覚が何よりも大事。
しかしこうしたライフスタイルを送る上で大事なことが1つある。バランス感覚だ。
お金儲けをないがしろにしているわけではない。人に迷惑をかけずに生きていくには、少なくとも今日の社会においては、お金を儲ける必要がある。お金儲けのアクティビティと、おもしろいアクティビティの時間配分が絶妙なのだ。このバランスが崩れてしまうと、おもしろいことに全力を傾けられなくなる。
ただお金を儲けるにも、自分はどういう仕事に向いているのか。どういう仕事だと自分の適正を活かしてお金を得ることができるのか。自分自身ではなかなか分からないことがある。
菱木さんも大学を中退してアメリカに渡ったり、調理師になろうとしたり、いろいろと試行錯誤を続けた。自分に何が向いているのか分からず、ふらふらしていた時期もあった。そんなとき、同い年でしっかり者の彼女ができた。彼女が頑張ってるのに、自分には何一つやりたいことがない。悩んでいたときに、友人から不動産投資のコンサルティング会社を勧められた。高校時代はサラリーマンには絶対になりたくないと思っていたが、とりあえず深く考えずにその会社に就職することにした。
ところがいざサラリーマンになってみると、「めちゃくちゃ楽しかったんです。仕事ってこんなに楽しいものなのかって思いました。センセーショナルな気付きでした」。
人当たりがよく真面目な性格が、不動産投資コンサルティングの仕事に向いていたのだろうか。入社して2ヶ月ぐらいから営業成績ががんがん伸び始め、先輩からは「こんなにできるやつをこれまで見たことがない」とまで言われた。お客さんで上場企業の部長職のような人からも、頼られた。うれしかった。
とはいえ、やりたいことがほかにも出てきた。今はコンサルティングの仕事を少しずつ減らしながら、別の「よりおもしろい仕事」に少しずつシフトし始めている。お金儲けと、おもしろいことのバランスを取りながら、前へ進もうとしているわけだ。
菱木さんのバランス感覚は、ほかの場面でも見かけたことがある。あるセミナーに一緒に参加したときのことだ。年配の経営者が前で話をしてくれているときに、前日の深夜まで飲んでいた菱木さんは、疲れがでて部屋の後ろの床の上で大の字になって寝始めた。まったくの自由人である。
考えようによってはこの経営者にとって大変失礼な話なのだが、結論から言うとこの経営者はそういうことを気にしないタイプだった。それどころか、そうした自由奔放な若者を好むような人だった。
たまたまうまくいっただけのことだったのだろうか。菱木さんを見る限り、そうではないと思う。神経質な人に対応する際には、礼儀正しく接しているのを何度も見かけたことがある。しかも彼は計算の結果、そう振る舞っているわけではない。どうやらあまり深く考えず自然にできているようだ。
自由奔放に振る舞いたいという思いと、ほかの人を傷つけたくないという思い。ときには相反する思いを、瞬時に天秤にかけて判断することができるのだと思う。
そのバランス感覚はどこからくるのだろう。多分、彼の健全な精神から来るのだろう。自己肯定感から来ているのだと思う。心の奥底に恐れや不安、怒りがある人には、この自然なバランス感覚はなかなか真似できるものではない。
そして楽しいことを追求することで、彼は精神的にさらに満たされ、さらにバランス感覚を高めていくのだと思う。
▶「ハングリー精神」より「満たされたバランス感覚でおもしろがる」
一般的に言って、満たされている人は、ストレスを感じることが少ない。
今日の余暇のアクティビティって、ストレス解消を目的としたものが多い。ストレス解消のためのカラオケ、ショッピング、映画、旅行・・・。満たされてくると、こうした余暇にお金を使う必要が減る。また虚栄心を満たすために、ブランド品で身を固める必要もなくなる。満たされてくれば、お金って以前ほど必要ではなくなるのだ。
一方で効率よく所得を得ることが可能になる。なぜなら満たされてくれば、自分自身のことがよく分かるようになる。自分が何を得意として、何をすれば人から喜ばれるのかも分かってくる。得意なことで喜ばれることをやっていれば、効率よくお金が稼げるようになるのだと思う。
満たされることでバランス感覚をつかみ、お金がそれほど必要ではなくなり、効率よく稼げるようになる。そうなれば毎日が楽しくなる。毎日が楽しくなるので、さらに満たされる。満たされれば、さらにうまく生きることができるようになり、さらに楽しくなる。正のループだ。このループこそが、21世紀の生き方ではないかと思う。
20世紀までは、多くの人の「満たされていない」精神状態が原動力になっていた。ハングリー精神で、経済成長を目指してきた。21世紀には「満たされている」人が全力でおもしろがるということが、パワーの源泉になるのだろう。そうした生き方が輝く時代になるのだと思う。
そしてそれぞれが、それぞれの「おもしろい」と思うことを追求することで、社会全体としては多様性のあるバランスの取れた形になるのではないだろうか。また正のループに入った人が、周りの人を幸せにしていって、社会の中に幸せな人が増えていく、という影響の広がり方もあると思う。
人工知能やロボットが普及すれば、社会全体の富は増していく。ますます豊かな社会になっていくのは間違いない。そうであるならば、たとえ人工知能やロボットに仕事を奪われたとしても、満たされたバランス感覚でおもしろがってさえいれば未来は明るいのではないだろうか。友人たちを見ていると、そんな未来の形が見えてくる。今度のパラダイムシフトは、エリートから庶民へのトップダウンで広がるのではなく、オセロの白い石に囲まれた黒い石がひっくり返るように広がっていくのではないかと思っている。
菱木さんがどんな毎日を送っているのか興味のある方は、彼のFacebookページをご覧ください。遊んでいるようにしか見えない!
【お知らせ】
少人数勉強会TheWave湯川塾29期事前告知しました。テーマは「データ経済社会」。
未来の働き方をテーマにした雑誌記事を読んだことがある。都会と田舎の2拠点で生活する人や、お金を稼げないようなプロジェクトを仕事と考える人が増える、というようなことが書いてあった。
ちょっと待てよ。僕の周りには、そういう生き方の人が既に数多く存在しているぞ。
「未来は既にここにある。ただ均等に分配されていないだけだ」。SF作家のウイリアム・ギブソンは言う。恐らく僕の周りには、未来を先取りする人が平均分布以上に存在するのだろう。
そんな中でも菱木豊さん(32)の生き方を見ていると、「確かにこの人の生き方こそが未来の生き方かも」と思わせるものがある。彼の生き方のどの部分がそうなのか、お話したいと思う。
▶ポイント1。お金をもらえるかどうかで仕事を区別していない
菱木さんは、僕が主催する少人数制勉強会TheWave湯川塾の事務局を手伝ってくれている。湯川塾で、菱木さんが自己紹介をするのを何度か聞いたことがある。「仲間と株式会社omoroという会社をやっています。株式会社omoroは、おもしろいことを、おもしろい仲間と、おもしろくやっていくという会社です!」と元気いっぱいに話す。
なんなんだ、そのおもしろいことをする会社って、と聞くと「おもしろいことなら何でもする会社です」と答える。
・・・答えになっていない。
株式会社omoroがやっている事業(?)の様子がFacebookのニュースフィードに流れてくることがある。「フェス」と銘打って、どこかの高原で、水風船の投げ合いっこをやっていた。「子供たちが大喜びだった」と書いてある。それが事業なのか?儲かっているのか?
「いや、イベント系の仕事は、まったく儲けを目指していないですね」と笑う。じゃあ、どんな仕事をして儲けてるの?ほかの事業は、儲かる仕組みなの?
「はい、儲かる仕組みです。今、企業向けツールを開発中なんですが、それはお金が儲かるようになってます」
そのツール開発は、おもしろからやっているのか?お金になるからやっているのか?どっち? 「半分半分ですね。おもしろいが半分、儲かるのが半分」。
何それ。ほかには?
「ケーキ屋さんのブランディングのお手伝いをしています。それはレベニューシェアで、売り上げが上がれば、その儲けの一部をもらうという枠組みです」。
それって儲かるの?生活できるの?
「株式会社omoroの収益だけでは、食べていけないっすね、まだ」。
じゃあどうしてるの?実家に住んでいて独身だから、それほどお金はかからないかもしれないけど、旅行とか楽しそうなことをいっぱいしているように見えるけど。いろいろ根掘り葉掘り聞いて出てきた答えが「個人で不動産投資のコンサルティングをやっているんです。そこでの儲けで食べてる感じですね」。
おいおい、早く言えよ。といういことはそっちが本業だよね。
「いや、不動産コンサルの仕事は徐々に減らしていこうって思っています。
何それ。どうやらお金を稼ぐ仕事に対して、アイデンティティをまったく置いていないようだ。
じゃあどんな風な生活しているの?典型的な1週間のスケジュールを教えて。
「えーと、まずは月曜日に起きて開発案件の資料を作って、夜は湯川塾の事務局の仕事があって、火曜日は、えーと、えーと。何をしてるんだろう。自分でも何やってるか分からない。ハハハ」。
不動産コンサルと株式会社omoroと、湯川塾の事務局と、ほかにはどんなことやってるの?
「あとはカマコンバレーの仕事と、サシモニ。あとは人と会ってます」。
カマコンバレーとは菱木さんの地元である鎌倉をITの力でよくしようというボランティアのプロジェクトで、もちろん無給。カマコンではどんなことやってるの?
「いろいろですね。今昔写真っていって、昔の鎌倉の写真と今の写真を照らし合わせるプロジェクトとか、あとカマコンの定例会をよりよくするためのプロジェクトリーダーとかやってます」
サシモニとは、一対一で朝に話を聞くという菱木さんの個人プロジェクトで、多いときは週に2,3人の話を聞くという。それを記事にまとめて彼のブログにアップしているのだが、それって結構な仕事量のはず。元気な人の話を広めると元気な人が増えるのではないかと思ってやっているようだが、これももちろん無給。
どのプロジェクトにどの程度の時間を費やしてるって聞くと、omoroの仕事(今のところほぼ無給)が40%、サシモニ(完全無給)20%、カマコン(完全無給)10%、湯川塾(完全無給。ありがと!)5%、投資コンサル(有給)5%、「残りは人と会う仕事」らしい。
人と会うって、飲み会ってことだよね。
「そうですね。毎晩飲んでます。ハハハ」。
仕事を「お金を儲けること」と定義すれば、仕事をしている時間は、全体の5%前後だけ。つまりほとんど遊んでいる、とも言える。
実は僕の周りにはこういう人が多い。僕が主催する少人数勉強会TheWave湯川塾は数人の事務局と数人の書記チームで運営されているんだけど、僕以外は全員無給(ありがと!)。事務能力のない僕のために秘書業務をしてくれている「まなみん」こと鈴木まなみさんも無給。塾のビデオ業務を担当してくれている「タニソー」こと谷口健吾さんは、過去に一度も欠席したことがない。「仕事だと思ってやってますから」と言うが、彼も無給。書記チームを率いる奥山浩通さんは、本業は不動産業。音声起こしに相当の時間を費やしてくれているが、無給。ひどいな、オレ・・・。
▶ポイント2。おもしろいと思うことを全力でおもしろがる
奥山さんが音声をテキストにしたファイルを送ってくるときに「いやあ、めちゃくちゃおもしろかったですね」というメッセージが追加されていることが多い。最近の塾では人工知能をテーマにした講義が多いが、新しい技術の話が出ていると、奥山さんは音声を起こすだけではなく、自分でさらに詳しく調べているようだ。最近では、トポロジカル・データ・アナラシスと呼ばれる技術が話題になったのだが、早速詳しく調べていた。恐らく日本一テクノロジーに詳しい不動産屋さんだと思う。本業には関連しそうもないのに、自分がおもしろいと思うことを全力でおもしろがってる。
同じく事務局を手伝ってくれている「片ちゃん」こと片山啓吾さんは、地元東村山市の町興しを「街わかし」と呼んで、かなりの時間を費やしているようだ。商工会議所の青年部の部長をやったり、周りの人が急に踊りだす「フラッシュモブ」を仕掛けたり、地元のヒーローキャラクター「ヒガシムラヤマン」の中の人として子供たちを喜ばせたり・・・。そうした「仕事」は、もちろん無給だ。
菱木さん、奥山さん、片山さんたちの「おもしろがり方」は半端ない。全力でおもしろがっている。
そして全力でおもしろがっていると、幸運の扉が開くことがある。おもしろいプロジェクトを通じて、お金になる仕事が入ってくることがある。奥山さんは、塾で出会った仲間と東南アジアでの仕事に乗り出した。
ただそうした「儲け」はあくまで副産物。だれもそれを求めて「全力でおもしろがっている」わけではない。ただ単に「おもしろい」から「おもしろいことに全力で取り組んでいる」だけのようだ。つまり彼らは、金銭という尺度でモノゴトをまったく見ていない。尺度は「おもしろいかどうか」。そしておもしろいことには、寝食を忘れるほどに熱中している。
▶ポイント3。バランス感覚が何よりも大事。
しかしこうしたライフスタイルを送る上で大事なことが1つある。バランス感覚だ。
お金儲けをないがしろにしているわけではない。人に迷惑をかけずに生きていくには、少なくとも今日の社会においては、お金を儲ける必要がある。お金儲けのアクティビティと、おもしろいアクティビティの時間配分が絶妙なのだ。このバランスが崩れてしまうと、おもしろいことに全力を傾けられなくなる。
ただお金を儲けるにも、自分はどういう仕事に向いているのか。どういう仕事だと自分の適正を活かしてお金を得ることができるのか。自分自身ではなかなか分からないことがある。
菱木さんも大学を中退してアメリカに渡ったり、調理師になろうとしたり、いろいろと試行錯誤を続けた。自分に何が向いているのか分からず、ふらふらしていた時期もあった。そんなとき、同い年でしっかり者の彼女ができた。彼女が頑張ってるのに、自分には何一つやりたいことがない。悩んでいたときに、友人から不動産投資のコンサルティング会社を勧められた。高校時代はサラリーマンには絶対になりたくないと思っていたが、とりあえず深く考えずにその会社に就職することにした。
ところがいざサラリーマンになってみると、「めちゃくちゃ楽しかったんです。仕事ってこんなに楽しいものなのかって思いました。センセーショナルな気付きでした」。
人当たりがよく真面目な性格が、不動産投資コンサルティングの仕事に向いていたのだろうか。入社して2ヶ月ぐらいから営業成績ががんがん伸び始め、先輩からは「こんなにできるやつをこれまで見たことがない」とまで言われた。お客さんで上場企業の部長職のような人からも、頼られた。うれしかった。
とはいえ、やりたいことがほかにも出てきた。今はコンサルティングの仕事を少しずつ減らしながら、別の「よりおもしろい仕事」に少しずつシフトし始めている。お金儲けと、おもしろいことのバランスを取りながら、前へ進もうとしているわけだ。
菱木さんのバランス感覚は、ほかの場面でも見かけたことがある。あるセミナーに一緒に参加したときのことだ。年配の経営者が前で話をしてくれているときに、前日の深夜まで飲んでいた菱木さんは、疲れがでて部屋の後ろの床の上で大の字になって寝始めた。まったくの自由人である。
考えようによってはこの経営者にとって大変失礼な話なのだが、結論から言うとこの経営者はそういうことを気にしないタイプだった。それどころか、そうした自由奔放な若者を好むような人だった。
たまたまうまくいっただけのことだったのだろうか。菱木さんを見る限り、そうではないと思う。神経質な人に対応する際には、礼儀正しく接しているのを何度も見かけたことがある。しかも彼は計算の結果、そう振る舞っているわけではない。どうやらあまり深く考えず自然にできているようだ。
自由奔放に振る舞いたいという思いと、ほかの人を傷つけたくないという思い。ときには相反する思いを、瞬時に天秤にかけて判断することができるのだと思う。
そのバランス感覚はどこからくるのだろう。多分、彼の健全な精神から来るのだろう。自己肯定感から来ているのだと思う。心の奥底に恐れや不安、怒りがある人には、この自然なバランス感覚はなかなか真似できるものではない。
そして楽しいことを追求することで、彼は精神的にさらに満たされ、さらにバランス感覚を高めていくのだと思う。
▶「ハングリー精神」より「満たされたバランス感覚でおもしろがる」
一般的に言って、満たされている人は、ストレスを感じることが少ない。
今日の余暇のアクティビティって、ストレス解消を目的としたものが多い。ストレス解消のためのカラオケ、ショッピング、映画、旅行・・・。満たされてくると、こうした余暇にお金を使う必要が減る。また虚栄心を満たすために、ブランド品で身を固める必要もなくなる。満たされてくれば、お金って以前ほど必要ではなくなるのだ。
一方で効率よく所得を得ることが可能になる。なぜなら満たされてくれば、自分自身のことがよく分かるようになる。自分が何を得意として、何をすれば人から喜ばれるのかも分かってくる。得意なことで喜ばれることをやっていれば、効率よくお金が稼げるようになるのだと思う。
満たされることでバランス感覚をつかみ、お金がそれほど必要ではなくなり、効率よく稼げるようになる。そうなれば毎日が楽しくなる。毎日が楽しくなるので、さらに満たされる。満たされれば、さらにうまく生きることができるようになり、さらに楽しくなる。正のループだ。このループこそが、21世紀の生き方ではないかと思う。
20世紀までは、多くの人の「満たされていない」精神状態が原動力になっていた。ハングリー精神で、経済成長を目指してきた。21世紀には「満たされている」人が全力でおもしろがるということが、パワーの源泉になるのだろう。そうした生き方が輝く時代になるのだと思う。
そしてそれぞれが、それぞれの「おもしろい」と思うことを追求することで、社会全体としては多様性のあるバランスの取れた形になるのではないだろうか。また正のループに入った人が、周りの人を幸せにしていって、社会の中に幸せな人が増えていく、という影響の広がり方もあると思う。
人工知能やロボットが普及すれば、社会全体の富は増していく。ますます豊かな社会になっていくのは間違いない。そうであるならば、たとえ人工知能やロボットに仕事を奪われたとしても、満たされたバランス感覚でおもしろがってさえいれば未来は明るいのではないだろうか。友人たちを見ていると、そんな未来の形が見えてくる。今度のパラダイムシフトは、エリートから庶民へのトップダウンで広がるのではなく、オセロの白い石に囲まれた黒い石がひっくり返るように広がっていくのではないかと思っている。

菱木さんがどんな毎日を送っているのか興味のある方は、彼のFacebookページをご覧ください。遊んでいるようにしか見えない!
【お知らせ】
少人数勉強会TheWave湯川塾29期事前告知しました。テーマは「データ経済社会」。