米New York Timesが2011年から有料化に踏み切ると発表した。英語の発表文はこちら



 月ごとに無料で読めるオンライン記事の本数を設定し、それを超えると課金の画面が表示され、月額料金を支払うとその月はその後、無制限に読むことができるようになるという。何本まで無料で読めるのか、月額料金が幾らになるのかは、現時点で決まっていないもよう。今回有料化の方針を発表し、その反応を見ながら決めていくという。自社の発表をまるで他社の発表のように客観性を装って書いているNew York Timesの記事はこちら(笑)。



“This announcement allows us to begin the thought process that’s going to answer so many of the questions that we all care about,” Arthur Sulzberger Jr., the company chairman and publisher of the newspaper, said in an interview. “We can’t get this halfway right or three-quarters of the way right. We have to get this really, really right.”




 失敗は許されないので、まず有料化の方針を発表したあとで詳細を詰めていく、というようなことなんだろう。落ち込む広告収入や紙の新聞事業収入を有料化で補うことができるのか、それとも有料化することで読者がさらに減り、その結果広告収入が大打撃を受けることになるのか・・・。社運を賭けた実験なので、1 年間かけて広告市場の動向、世論の反応をじっくり見てから詳細を決めるのだろう。ということは今後の動向次第では「やっぱりやーめた!」てこともあり得ると僕は思うけどね。



 この発表は、日本の新聞業界の有料化推進派にとって追い風になるだろう。僕は年末に時事通信を辞めるかなり前から新聞協会の会合には一切出なくなったので、新聞各社がどのように動いているかを表の場で聞くことはなくなったんだけど、それでもいろんな話がアチラコチラから聞こえてくる。時事を退社したということで「ぜひ意見交換を」と近づいてくる社も1社や2社ではない。僕は別に何も情報持ってないんですけど(笑)。



 そうした複数の新聞社からの情報を総合すると、業界全体として有料化へ傾いていることは間違いなさそう。新聞協会の事務局関係者からきた年賀状には「新聞業界は有料化の方向に舵を切りました。その選択が正しかったのかどうかはこれから答えが出ると思います」と書いてあった。



 またデジタル部門の関係者が集まる”勉強会”みたいなのが頻繁にあって、そこでは割と多くの関係者が「ネット企業への配信を減らして、新聞記事は各社のサイトで有料で読めるようにするしかない」「そうだ、そうだ」と言っているとかいう話も聞こえてくる。でも複数の関係者は僕に対しぼそっと「表向きは賛同しているようには振舞っているけど、この状況でネット企業からの配信料収入を自ら捨てるというのは結構厳しい選択になるんだよね」というようなことを語っている。



 そりゃそうだろう。



 良質の記事を作るためにはコストがかかる。そのコストに見合う収入がほしい。だから有料化したい。有料化を熱心に語る社の言うことは分かる。でもネット企業からの配信料収入もほしい。ネット企業への配信をやめたからといって有料化でそれ以上の収入を得ることが可能かどうかまったく分からない。有料化を熱心に勧める他社が収入を保証してくれるわけでもない。それどころか現場では日々安売り合戦が繰り広げられている。「A社がうちの半分の料金でもいいからってネット企業に売り込みをかけている。困ったもんだ」「相場を下げているのはB社のほう。お陰でだれも儲からない状況になっている」という疑心暗鬼の状態。こんな状況で、「みんなでそろっていっせいに有料化」なんてありえない。絶対抜け駆けする社が出てくる。他社の口車に乗って有料化したあとに、後ろを振り返ったらだれもいなかったということになりはしないか。結局損をするのは自分だけになるんじゃないか・・・。割と多くの関係者がそんなふうに考えているようだ。



 だからみんなそろっての有料化なんてありえない、と僕は思う。



 答えはそこにはないんだよ。答えは、徹底したコスト削減、対話型ジャーナリズム、複数の中規模メディアの確立にしかない。「言ってることが分からない」「無責任な評論はもういいから、具体的な方法を示せ」「口ばっかりで、自分では動こうとはしないくせに」という批判が新聞関係者から寄せられることがあるけど、はい、分かりました、動きます。それがこのブログメディアTechWaveです。





 読者への利便性を無視して自分たちの都合で有料化に走らなくてもメディア事業は成立する。僕も、このブログメディアをサポートしてくれているライブドアもそう考えている。その辺のことはCNETの鳴海淳義記者が良質なテキストはお金にできる--ライブドアが考える「儲かるメディアの作り方」という記事にまとめてくれている。多謝。



 ただ僕の発言で誤解を招きそうなところが1点あったので、訂正しておきます。僕がそう言わなかったということじゃなくて、確かにそう言ったんだけど、ちょっとおちゃらけてしゃべってたんで、文章にした場合、その辺のニュアンスが伝わらないんで。

 田端さんが「良質なテキストは完璧にお金にできる」「トラフィックが増えていけばメディアビジネスとして成り立つ」「自信は持っています」と断言しているんだけど、僕が「まったく自信がないです」と茶化しています。言いたかったことを正確に表現すると、「まだ半信半疑です。でも、そこまで自信を持てるほど、ノウハウを蓄積したということはすごいと思う」というような感じになるかと思います。





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