アフィリエイト事業大手のリンクシェア・ジャパンと、同トラフィックゲートが合併した。リンクシェア・ジャパンは米リンクシェアと三井物産の合弁事業だったが、2005年に楽天が米リンクシェア自体を4億2500万ドルで買収している。一方でトラフィックゲートは楽天の完全子会社。新生リンクシェア・ジャパンの株は楽天が36.25%、米リンクシェアが27.5%、三井物産が36.25%をそれぞれ保有、新会社は楽天が完全に主導権を握ることになる。



 なぜ楽天はこの時期に、アフィリエイト事業に力を入れようとしているのか。それはウェブがポストGoogle時代、ソーシャルメディア全盛時代に入ろうとしているからだ。情報が人と人との関係を通じてより多く流れようとする中で、アフィリエイト事業が今後急拡大する可能性があるからだ。




 15日に都内で開かれたアフィリエイトの見本市でパネル討論会に参加したリンクシェアの小宮山晋太郎代表取締役共同社長と津田圭吾取締役共同社長は「ソーシャルメディア時代こそアフィリエイト事業は大きく伸びる」と力説した。この時代の変革期をチャンスととらえ、大きく躍進するために合併を決めたのだという。



 リンクシェア・ジャパンは、同社の商品データベースなどを利用したツールをサードパーティが開発できるようにAPIと呼ばれる技術仕様を公開している。リンクシェアのデータベースをプラットフォームにして、その上で他社開発の各種ツール、サービスが動作するようなオープン戦略を推進しているわけだ。開発コンテストなども開催しており、既に幾つかおもしろいツールがサードパーティの手によって開発されている。











 社外の開発者に「リンクシェアのプラットフォーム上で動作するツールを開発したい」と思ってもらうためには、リンクシェアのプラットフォーム自体が大きくなければならない。この戦略の推進には、規模が必要なわけだ。



 発表文によると今回の合併では、リンクシェア・ジャパンを利用する約40万のアフィリエイトサイトに、トラフィックゲートの約20万サイト、楽天アフィリエイト利用者約500万人が加わった。流通総額は4,000億円にも上る。日本最大のアフィリエイトネットワークになったわけだ。この規模をてこにして、オープンなプラットフォーム戦略を推進しようというわけだ。



 サイト数やユーザー数だけではない。楽天にはユーザーの購買履歴などをベースにしたレコメンデーション技術もある。サイトに訪問してくるユーザーごとに最も関連の高いアフィリエイト広告を表示することができるようになるわけだ。アフィリエイターが自らアフィリエイト広告を頻繁に張り替えなくても、アフィリエイト広告を表示するボックスをブログに張りつけておくだけで最も効果的な広告が自動的に表示されるようになるという。



▼電子マネー連動で世界の最先端に



 膨大なユーザー数をベースに、人と人との情報の流れの中にレコメンデーション技術を使って的確な広告メッセージを表示していくというのは、GoogleやFacebookも注力している分野だ。世界的に見れば、楽天とリンクシェアの試みは別段新しい話でもない。しかし両社は、GoogleやFacebookでさえも実装できていない取り組みに乗り出そうとしている。電子マネーの利用だ。



  楽天は昨年秋に電子マネー「Edy」を運用するビットワレットと資本提携し、連結子会社化した。(IT mediaの記事。ホリエモンの解説楽天が"Edy"を買収する意味|堀江貴文オフィシャルブログ「六本木で働いていた元社長のアメブロ」by Ameba



 今回の合併後は、Edyとアフィリエイトがつながるのである。アフィリエイト広告の結果として、リアルの店舗での購入に至ったことがEdyの履歴で分かるようになる。広告主は、より明確な効果測定を求め始めた。広告の数ある効果測定指標の中で、実際の購買データを超える効果測定指標はない。広告の究極の効果測定指標である。Edyの普及が進めば、リアルの店舗での購入という究極の効果測定が可能になり、アフィリエイト広告の効果が実証されればより多くの広告予算が投入されることになるだろう。アフィリエイトの仕組みがパソコン上だけではなく、リアルな環境にまで飛び出すわけだ。



 こうした世界最先端の取り組みを持って、リンクシェアはアジアを中心とした世界戦略に打って出ようとしているわけだ。週末のイベントがアフィリエイター向けだったのであまり海外戦略の話は出なかったが、発表文の中では3つの重点戦略の1つに挙げられている。

3.アジア展開

アジア各国におけるEC分野を中心としたインターネット市場の拡大に合わせ、2011年以降、順次、サービスの展開を計画。また、全世界共通の技術プラットフォームを構築することで、広告主のグローバル展開を支援できる体制を整備
 楽天が社内会議を突如、英語に切り替えたのも、こうした下準備がほぼ完成し、いよいよ世界に打って出る時期だと認識したからだろう。先を見通せる会社にとって時代の変革期は、好機である。ソーシャルメディア時代の幕開けに伴って、楽天が大きく動こうとしているようだ。