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 江戸時代の時間は昼を6等分、夜を6等分した「一とき」と呼ばれる非常に大まかなものだった。それが今では秒以下の単位まで細かく測定できる。公共交通機関の正確な運行を始め、「時間」が細かく正確に計れるようになったことで、われわれは社会生活において大きな恩恵を受けている。



 同様に「空間」も今、細かく測定できるようになってきた。GPSが登場し、より正確な準天頂衛星システム「みちびき」も打ち上げられた。さらにより細かく「空間」を特定できる技術が次々と登場している。「時間」の細かな測定が社会生活を変えたように、「空間」の細かな測定も社会生活を大きく変化させるはずである。その変化はいろいろな分野に及ぶのだろうが、その一例として電力の生成に影響を与え始めている事例を紹介したい。



 まず「空間」を細かく測定する技術として、LIDAR(ライダー)と呼ばれる技術に注目が集まっている。LIDARはソナーの光版と考えれば分かりやすいだろう。ソナーとは、自ら音波を発し、その音波が物体に当たって跳ね返ってくる方向や戻ってくる時間から、周りの物体の場所を測定する技術。水中探知機などに使われる。これを音の代わりに光を使って周辺の物体の場所を測定するのがLIDARである。



 米国のNAVTEQ社は、このLIDARの装置を自動車の天井に設置しGPSなどで現在地を把握しながら、米国の主要都市の道路という道路を走り回っている。ちょうどGoogleが特殊カメラを搭載した小型トラックで街中を走り回り、ストリートビューを生成しているのと同じような感じだ。ただストリートビューと違って、物体のX,Y,Zの座標軸を非常に正確に把握できる。



 その様子は下の動画にまとめられているので、ぜひこの動画をご覧ください。






 飛行機にもLIDAR装置を搭載して上空からの物体のデータを収集し、自動車で得たデータと合体させることで、完璧な位置データを生成できる。ストリートビューをはるかに超える正確さで、3D空間を操作できるようになるわけだ。



 さて「空間」をここまで正確に把握できれば、何が可能になるのだろうか。不動産や観光、広告など、あらゆる可能性が指摘されているが、今回は電力不足解消の事例を紹介したい。



 米Geostellar社は、LIDAR技術を使って米国の一部都市の建造物の屋根の面積を測定し始めている。LIDARなので単純な航空写真とは異なり屋根の傾斜まで把握できる。そこに日照時間などの気候に関するデータを組み合わせて処理することで、その屋根にソーラーパネルを設置することで1年間に生成できる電力量をほぼ正確に算出している。







 そのデータを基に、ソーラーパネルのメーカーなどが建造物の所有者にソーラーパネルの設置を提案し始めているという。屋根に設置したソーラーパネルの年間の電力生成量が、年間の電力消費量を超えるような家庭に対して無料でソーラーパネルを設置し、余剰電力を業者の取り分にするというビジネスモデルも成立する。ソーラーパネルを設置する家庭にすれば、無料でソーラーパネルを設置してもらい、しかも電気代が無料、もしくは大幅削減になるのであれば、大喜びで業者の申し出に応じることだろう。



 また自治体などにすれば、正確な電力生成量を予測することができれば、補助金を出して全世帯にソーラーパネルを設置するという方法も可能かもしれない。



 さてこれは「空間」の細かな測定が可能にした一例に過ぎない。細かく測定された「空間」は、便利なサービスをいろいろと生み出すことだろう。ぜんまい仕掛けの時計が登場したのは15世紀といわれる。ぜんまい仕掛けの時計が広く普及したことで起こったのと同じレベルの社会変化が、「空間」の領域で起ころうとしているのである。ただ変化の速度は、ぜんまい仕掛けの時計の普及時とは、比較にならないほど目まぐるしいものになるのだろうが。