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 米Facebookが電子書籍作成ツールのPush Pop Press社を買収した。Facebookは何のために電子書籍ツールのベンチャー企業を買収したのだろうか。電子書籍プラットフォームを目指しているとも思えない。こうした一見不可解な買収にこそ、次の潮流を読むヒントがある。いろいろ調べてみると、見えてきた。ソーシャルの時代の次の主戦場は、どうやらデザインの領域になりそうだ。



  CNET Japanによると、Push Pop Press社は、元米副大統領Al Gore氏の著書「Our Choice」のiOS版アプリを開発。同アプリはユーザーから絶賛され、Apple Design Awardを受賞したという。



 どれだけすごいのか。下のビデオでは、そのAl Gore氏自身がPPP社の電子書籍の使い勝手を説明している。本の中から写真だけを表示して、写真から関連のページでジャンプできたり、グラフを指でなぞれば数値に関するより詳しい情報が表示されたりと、確かに現在市販されている電子書籍の中ではトップクラスの使い勝手を実現していると言えそうだ。

Al Gore's Our Choice Guided Tour from Push Pop Press on Vimeo.





 今回の買収に関しApple情報専門の人気ブロガーのJohn Gruber氏は、FaceBookが欲しかったのはPush Popの製品ではなく、デザインに関する才能だと指摘している。確かにFacebookはモジラのデザインなどを手がけたことで有名なオランダのSOFA社を6月に買収したばかり。Gruber氏によると、Push PopのMike Matas氏は、Appleの元デザイナーで、Appleの最近のデザインの多くは同氏が手がけたものだという。





 ブロガーのJohn Gruber氏は、今回の買収が、デザインに対するFacebookの本気度を示していると解説している。http://daringfireball.net/



 どうやらシリコンバレーは、技術そのものよりもサービスの使い勝手などのデザインに注力し始めたらしい。いろいろな場面でそう感じることが増えてきた。先日の記事、次世代AR(拡張現実)から個人情報ロッカーまで シリコンバレーベンチャー8選【湯川】 : TechWaveでも、より洗練されたデザイン、使い勝手を提供するサービスがベンチャーキャピタルからの出資を受けることに成功したり、著名人の注目を集めていることが分かる。



 確かにちょっと前まで、ソーシャル系のサービス、アプリの多くは、デザインや使い勝手で似通ったものが多かった。どれもTwitterを少し変形させただけのデザイン。わたしが知っているだけでも、同じようなコンセプトやデザイン、使い勝手のアプリが山のように存在する。



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 米著名投資家のRoger McNamee氏は、モバイルやタブレットが急速に普及する中で、モバイルやタブレットに最適化されたデザイン、使い勝手がまだ登場していないという。同氏にとっては、Google、Facebook、Appleでさえ、モバイル、タブレットの本来あるべき使い勝手を提案できていない状況だという。(関連記事:Facebook Investor Roger McNamee Explains Why Social Is Over



蛇足:オレはこう思う





ソーシャルはもはや当たり前。ソーシャルの力でソーシャルゲームの会員を急増させたり、ソーシャル広告が売り上げを急増させることがあることは、既に実証済み。今後はあらゆるメディア、コンテンツ、広告にソーシャルの要素が組み込まれることになるのだと思う。(関連記事:Zyngaの新ゲーム“CityVille”が早くも“FarmVille”を追い越した 【三橋ゆか里】 : TechWaveミクシィが動いた これがソーシャル広告のチカラ【湯川】 : TechWave



ソーシャルの要素を組み込むことが当たり前になったときに、次にどのような要素で競合他社と差別化するのだろうか。



恐らくデザインになるのだと思う。この場合のデザインというのは、ウェブページをかっこ良くデザインする、という意味のデザインだけではなく、ユーザーインターフェース(UI)、ユーザーエクスペリエンス(UX)のデザインも意味する。つまり使い勝手のいいサービス、使っていて楽しいサービスを作れたかどうか、それが差別化のポイントになるんだと思う。特にモバイル、タブレットは、PCとは異なるUI、UXのデザインがあってしかるべき。今のようにPC向けウェブページのデザインをモバイル向けに変換してみました、という程度のものとは、まったく別のデザインがこれからあらゆる分野で登場してくるのだと思う。



そしてその使い勝手を生む技術としてHTML5がベースになるのは間違いない。

そしてそうなれば、いずれコンテンツ課金が可能になったり、AppleのAppStoreの影響力が低下したり、フリーミアムモデルが崩壊したり、などなど、いろんな展開が予想される。そこはちょっと説明に時間がかかるので、いずれまた。