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 オフショア開発で培った技術力と貧困国市場に対する理解の深さで、インドが世界のイノベーションセンターになるのではないかー。その仮説の下、2月下旬にインドに行ってきたのだが、実際に幾つかのビジネス領域でその兆しを見ることができた。1つはケータイコンテンツの領域。関係者によると、ケータイコンテンツはインドで既に大きなビジネスになりつつあり、さらには同じコンテンツをアフリカや中東に横展開する動きも加速してきているようだ。



 インドの財閥Bhartiグループとソフトバンクとの合弁会社Bharti SoftbankのKavin Bharti Mittal氏は「インド人は娯楽が大好き。だが低所得者層にはテレビのない家庭もある。一般的な娯楽はラジオが中心。そんな中、6億人がモバイル端末を持った。モバイル端末を通じた娯楽コンテンツの潜在市場は巨大だと思う」と語る。



 ある日系企業のインド駐在員も「インド人は娯楽を求めている。休みの日にはすることがなくぶらぶらする人が多い。日本の娯楽コンテンツなどはインドでまだまだ評価されるのではないだろうか」と語る。



 デジタルコンテンツ関連のTangerine Digital Entertainment社のAtul Sharma氏によると、ケータイコンテンツを消費するのは富裕層だけではないという。「テレビと違ってパーソナルなメディアということもあるのでしょう。家族とは別に自分の好きなコンテンツを好きなときに楽しむという傾向があるようです」と同氏は言う。



 インドではケータイコンテンツ産業が急成長を始めたようだ。同氏によると、コンテンツ料は少額でもケータイユーザーが7億8000万人(うちアクティブユーザーは5億8000万人)もいる巨大市場だけに成功すれば大きな収入になるという。電話会社最大手のAirTelのユーザー数は1億8000万人だが、成功しているコンテンツ事業者はAirTelの事業だけでも月に約4000万ルピー(6400万円)を売り上げているという。単純計算してもその5倍の売り上げを得ている可能性があるという。
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 同氏によると、最も収益が大きいのは占いコンテンツ。とはいっても日本のようにコンピューターが自動的に占い結果を出力するのではなく、百人以上の占い師が待機していて直接電話で話ができるサービスのようだ。



 また映画やスポーツなどの動画コンテンツも人気。ケータイ向けに解像度を落とし、さらに重要な場面だけを集めた15分ほどのダイジェスト版に加工されているものが人気だと言う。



 一方で、Sharma氏によると着メロなどの一部コンテンツの市場はインド国内でも飽和状態になりつつあり、南アフリカや中東のドバイなどでケータイコンテンツを横展開しようという動きが1年ほど前から加速してきたという。



 インド最大手の電話会社Airtelはアフリカの16の市場でモバイル通信網を運営しており、それらの市場でインド発のケータイコンテンツの販売を始めているもよう。インドのケータイコンテンツ大手のComviva Technologies社も南アフリカ、ドバイなどに拠点を構えて、ケータイコンテンツを新興国市場に販売していく考えだという。



 Sharma氏によると、インド企業の強みは①低コストでコンテンツを開発、加工できること、②国内に22の公用語を持つ多言語国家だけに多言語対応の体制が完成しており海外展開がしやすいというところ、にあるという。



 同氏は「経営者層の年俸は先進国と大差ないところまで上がってきているが、一般的な従業員の給与は月に米ドルで500(約4万円)ドルから1000ドル(約8万円)の間くらい。このコストパフォーマンスがインド企業の強み」という。同氏のTangerine社では、スポーツの試合やテレビ番組などに「選手名」や「俳優名」など数十種類ものメタタグを付与し検索しやすくするほか、重要な場面だけを集めたダイジェスト版の動画を作成したりしている。テレビ局やスポーツ団体などのクライアントの依頼を受け、こうした作業を160人以上の従業員が24時間体制で行なっているという。



 米国にはこうした作業をテクノロジーを使って自動化している競合社が存在するが「プログラムで自動的にタグ付けした場合、精度は60%程度。われわれは人間がタグ付けするので95%以上の精度を出せる」と同氏は胸を張る。



 また同社ではインド国内の8つの言語に加え、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語にも対応しており、これらの言語でのメタタグ付与作業が可能としている。



 「日本からの依頼がないだけで、日本語にも対応可能。インドには日本語が話せるインド人は山のようにいる。韓国にはクライアントがいて韓国の音楽ビデオに英語でタグ付けしてYouTubeなどでリリースしており、米国などで韓国の音楽が人気を呼んでいる」と同氏は言う。



蛇足:オレはこう思う



 ケータイの占いサイトがコンピューターではなく、本物の占い師が対応している、というのがウケた。インドではへたにテクノロジーで対応するより、余っている人的資源を使うほうがいいサービスができる、ということなんだろうなあ。テクノロジーがさらに進化しコストパフォーマンスがさらに向上すれば、テクノロジーが人的労働に取って代わる可能性はあるのだろうけど。



 スポーツの試合などのダイジェスト版を作りメタタグをつけてYouTubeにアップすると、1000回視聴されると約3ドルの広告収入になるという。有料動画サイトのHuluなら4ドルから5ドルらしい。コストパフォーマンスよくタグ付けできれば、ロングテール効果で長期的には確かにそれなりのビジネスになるのかもしれない。



 インド自体が2020年には中国を抜いて世界最大の市場になるんだけど、インド企業はその次にアフリカの新興国の市場を狙っている、というのがおもしろい。最先端の技術を持ちながら、労働コストが低く、さらには途上国の市場メカニズムをも理解している国、インド。これはやはり目を離せないなあ。



 秋口には再度、インドへ行ってこようと思います。今回、ツアーを企画してくれたムーンライトウェイヴ株式会社さんのコーディネートが非常に素晴らしかったので、次回もぜひ同社と一緒に行こうと思います。興味のある方は一緒に行きましょう。僕にとっても、いろんな業界の人の知識、物の見方から多くを学べると思いますので。「こういう領域の企業を視察したい」という希望があれば、ツアーが確定する前に同社にお伝えください。連絡先はIndiaAndJapan@moonlightwave.comだそうです。