9/28公開予定のドキュメンタリー映画
「スティーブ・ジョブズ1995 ~失われたインタビュー~」をDVDで見る機会を得た。ジョブズがAppleに復帰する1年前に撮影されたインタビュー映像だ。Appleの立ちあげ時の話を楽しそうに語るジョブズ、Apple追放になった話を辛そうに語るジョブズ、ウェブの登場を受け未来を嬉しそうに語るジョブズ・・・。ジョブズファンにはたまらない映像だ。
問題はこのインタビュー映像で何を学ぶかだ。歴史好きは、コンピューターのこれまでの歴史で実際に何が起こったのかを学ぶことができる。経営者は、強いチームの作り方、急成長の段階における注意点などを学べるだろう。
しかしもしあなたが、これから新しいモノやサービスを作っていこうと考えているのなら、もしくは自分たちの手で未来を変えていこうと考えているのなら、ジョブズのイノベーションに対する考え方が参考になるのではないかと思う。
目に見える世界を超越した何かが存在する
その考え方を一言で言うと、精神世界とつながることで得た直感やクリエイティビティを、モノやサービスを作る際に利用しないといけない、という話だ。
実はこのことについてジョブズは多くを語っていないし、うまく語れていない。ジョブズ自身、自分でもうまく説明できていないと感じたのか、途中で「オレの言ってること分かるか?」と聞き返している。
なのでこの映画を見ても、多くの人はジョブズの言いたいことを正確には理解できないかもしれない。
イノベーションに関するジョブズの考え方は、「君は自分のことをヒッピーと思うか、ナード(技術オタク)と思うか」という質問に答える形で明らかになっている。
ジョブズは、自分をヒッピーだと認識していると答えた上で、次のような話をしている。
60年代に米国でヒッピー・ムーブメントが起こったときに、「目に見える世界を超越した何かが存在する」ことに気づいたという。いい仕事と家庭を持って豊かな生活をするという日常とは別の何か。自分たちはコインの表で生活しているが、実はコインには裏もあった。その「目に見える世界を超越した世界がある」という世界観を持っているという意味において、ジョブズは自分と自分のチームのことをヒッピーだと表現している。ヒッピーは仏教などの影響を受けて、瞑想に取り組んだり神秘現象を信じたりしていたからだ。
「普段はその別の世界について日常会話の中で話題に登ることはない。でも物事の秩序が崩壊したときには、この世界と別の世界の間に亀裂が生じ何かが噴き出してくるんだ」「過去の偉人たちは、その正体を探れと教えてきた」
ジョブズは乙川(知野)弘文師から禅を学んでいたことは有名な話だ。目に見える世界とは別の世界が存在するという考え方は、まさしく仏教の考え方だ。
そのコインの裏側の世界、目に見えない世界の存在が、人々を「銀行員ではなく詩人になりたい」と思う気持ち、精神を持たせるのだジョブズは言う。
「それはすばらしいことなんだ。だからその精神を製品にも宿してやれば、その製品を手にした人にもその精神は伝わるはずなんだ」
この精神をMacに吹き込んだので、人々はMacを愛したのだとジョブズは言う。「モノに対して愛しているって表現はおかしくないかい?」。人々はMacというモノを愛していのではなく、Macというモノの中に宿っている精神を愛しているのだというわけだ。
ジョブズが一緒に働いてきた非常に優秀な人たちは、みなこの精神性を大事にする人だという。「彼らはコンピューターを作ってきたわけじゃない」。コンピューターは、彼らの精神性を乗せるための乗り物でしかなかった。「もしもっと昔なら彼らはコンピューターではなく、別の人生を歩んだと思う」。コンピューターではなく、詩や歌や芸術に人生をかけたのかもしれない。しかし目の前にコンピュータが出現した。なので、コンピュータを通じて自分の精神性を表現し、世界と共有しようとしたのだという。
ジョブズは、この仏教的な考え方を持っているからこそ、ジョブズと彼のMacチームは成功したと考えているようだ。この「精神が乗っているかどうか」がジョブズの作る製品と、他の製品との違いであると考えているようである。
ジョブズは日本人よりも、日本人なのかもしれない。ちなみにこの映画の中で彼が日本を高く評価していることが分かる箇所がほかにも2つほどあった。
1つは、AppleでMacの工場を作るときに70社ほどの日本の工場を見学して回ったという話。もう1つは「彼らは絶対に諦めない。勝つまで戦う。日本人のように」という表現。
日本社会は全般的に自信喪失気味だけど、今一度日本の精神性のすばらしさを認識すべきかもしれない。今、まさに大きな変化のフェーズに入った日本。「物事の秩序が崩壊したときには、この世界と別の世界の間に亀裂が生じ何かが噴き出してくる」のだとしたら、「その正体を探り」それをイノベーションに利用すべきときなのかもしれない。
【関連書籍】
「未来予測 ―ITの次に見える未来、価値観の激変と直感への回帰」