人工知能のことを調べ始めて、もうそろそろ1年になる。これまでに取材した日米のトップレベルの人工知能研究者は20人以上、起業家、ビジネスマンを含めると、人工知能関連だけで50人近くの専門家の話を聞いてきた。また最近はIoTやヘルスケアなどのベンチャー企業の取材に軸足を移し、人工知能をどうビジネスに活かすのか、ということを考えている。
その結果、分かってきたことがある。それは、人工知能が答えを出すには膨大なデータが必要だということ。またその膨大なデータを継続的に入手できる仕組みを作った者が非常に有利になり、正のスパイラルに入るので、2番手が追いつけなくなるということだ。つまり先手必勝だということだ。
このことは最初から仮説として持っていたが、取材を続ける中で仮説が確信に変わってきた。つまり本格的な人工知能時代が始まるまでにすべきことは、特定の領域においてできるだけ多くのユーザーを抱えるということだ。このことはネットビジネスの世界では以前から当たり前の話だったが、人工知能の普及を受けて、特定の領域でナンバーワンになることは以前にも増して重要になる。そして、インターネットがあらゆる産業の基盤になる中で、ネットビジネス以外の領域でも、このことは非常に重要になってくるのだと思う。
取材した数社のバイオベンチャーの経営者は、全員このことに気づいていた。血液、脳波、DNA・・・。採取するデータは異なるが、ビジネスの枠組みを通じてデータが増えることで計算機による解析が可能になり、解析することで知見が増え、知見が増えることで、疾患に対する新たな対処法が生まれ、サービスが向上する。大学の研究者側もこのことに気づき始めており、ベンチャー企業と組むことに積極的になっている研究者が増えているようだ。
▶人工知能はクラウドサービスになる
「でも、うちは人工知能は関係ないなあ。人工知能の研究者なんていないし」。人工知能の話をすると、多くのベンチャー企業の社長はこういう反応を示す。それに対して僕は「クラウドのデータストレージサービスのように、人工知能自体はだれでも利用できるクラウドのサービスになっていくはず」と答えてきた。
やはり時代はその方向に動いているようで、6月に米国で取材したwise.io社はマーケティング向けの機械学習をクラウド型で提供する会社だったし、Amazonは対話エンジンのAlexaのAPIを公開すると発表した。自社で人工知能機能を持つサーバーを保有しなくても、これらのクラウドサービスを利用できるような環境になりつつあるわけだ。
▶画期的なセンサー、人工知能の登場で、GO!
では環境が整いつつある中で、いつ勝負をかけるべきか。ずばり、安くて使い勝手のいいセンサーが登場、もしくは開発できたとき。そして必要とする機能の人工知能のクラウドサービスが登場したときだと思う。
高価なデバイス、使い勝手が面倒なデバイスは普及しない。安価で、使い勝手のいいウエアラブルデバイスか何かで、生体データを簡単に採取できるようになれば、ヘルスケアのサービスが立ち上がり、予防医療の領域は大きく変化することになるだろう。
またAmazonが対話エンジンを公開したことを受けて、同様の対話エンジンを持つGoogle、Apple、Microsoftも右に倣えで公開してくる可能性がある。そうなれば人工知能のクラウドサービス間で価格競争が起き、ベンチャー企業でも、比較的安価で対話エンジンを利用できるようになる。まずは多くの企業が対話型ロボットを開発してくるようになるかもしれない。
ただ残念ながら今日の人工知能は、人間レベルの会話を完全にこなせるわけではない。人間レベルになるまで、まだ何十年もかかるかもしれない。とはいっても利用領域を限定すれば、十分に対話できるロボットの開発は可能だろう。受付ロボット、独居老人向けロボット、英会話学習用ロボットなど、特定の領域に用途を限定したロボットが今後、数多く登場することだろう。
そして先手必勝の法則は、これらの領域でも有効となる。より多くデータを集めることができたところが正のスパイラルに入り、一人勝ちすることになりそうだ。
ネットビジネスの常識が、ありとあらゆる領域のビジネスの常識になる時代。ちょっとした技術革新でも、老舗企業が倒れ、新しい企業の躍進を可能にするようなインパクトを持つようになるかもしれない。
【お知らせ】 この記事はBLOGOSメルマガ「湯川鶴章のITの次に見える未来」の無料公開分の記事です。
http://synapse.am/contents/monthly/tsuruaki" target="_blank">オンラインサロンもやってます。オンラインサロンでは、僕の取材メモをリアルタイムで公開しています。
その結果、分かってきたことがある。それは、人工知能が答えを出すには膨大なデータが必要だということ。またその膨大なデータを継続的に入手できる仕組みを作った者が非常に有利になり、正のスパイラルに入るので、2番手が追いつけなくなるということだ。つまり先手必勝だということだ。
このことは最初から仮説として持っていたが、取材を続ける中で仮説が確信に変わってきた。つまり本格的な人工知能時代が始まるまでにすべきことは、特定の領域においてできるだけ多くのユーザーを抱えるということだ。このことはネットビジネスの世界では以前から当たり前の話だったが、人工知能の普及を受けて、特定の領域でナンバーワンになることは以前にも増して重要になる。そして、インターネットがあらゆる産業の基盤になる中で、ネットビジネス以外の領域でも、このことは非常に重要になってくるのだと思う。
取材した数社のバイオベンチャーの経営者は、全員このことに気づいていた。血液、脳波、DNA・・・。採取するデータは異なるが、ビジネスの枠組みを通じてデータが増えることで計算機による解析が可能になり、解析することで知見が増え、知見が増えることで、疾患に対する新たな対処法が生まれ、サービスが向上する。大学の研究者側もこのことに気づき始めており、ベンチャー企業と組むことに積極的になっている研究者が増えているようだ。
▶人工知能はクラウドサービスになる
「でも、うちは人工知能は関係ないなあ。人工知能の研究者なんていないし」。人工知能の話をすると、多くのベンチャー企業の社長はこういう反応を示す。それに対して僕は「クラウドのデータストレージサービスのように、人工知能自体はだれでも利用できるクラウドのサービスになっていくはず」と答えてきた。
やはり時代はその方向に動いているようで、6月に米国で取材したwise.io社はマーケティング向けの機械学習をクラウド型で提供する会社だったし、Amazonは対話エンジンのAlexaのAPIを公開すると発表した。自社で人工知能機能を持つサーバーを保有しなくても、これらのクラウドサービスを利用できるような環境になりつつあるわけだ。
▶画期的なセンサー、人工知能の登場で、GO!
では環境が整いつつある中で、いつ勝負をかけるべきか。ずばり、安くて使い勝手のいいセンサーが登場、もしくは開発できたとき。そして必要とする機能の人工知能のクラウドサービスが登場したときだと思う。
高価なデバイス、使い勝手が面倒なデバイスは普及しない。安価で、使い勝手のいいウエアラブルデバイスか何かで、生体データを簡単に採取できるようになれば、ヘルスケアのサービスが立ち上がり、予防医療の領域は大きく変化することになるだろう。
またAmazonが対話エンジンを公開したことを受けて、同様の対話エンジンを持つGoogle、Apple、Microsoftも右に倣えで公開してくる可能性がある。そうなれば人工知能のクラウドサービス間で価格競争が起き、ベンチャー企業でも、比較的安価で対話エンジンを利用できるようになる。まずは多くの企業が対話型ロボットを開発してくるようになるかもしれない。
ただ残念ながら今日の人工知能は、人間レベルの会話を完全にこなせるわけではない。人間レベルになるまで、まだ何十年もかかるかもしれない。とはいっても利用領域を限定すれば、十分に対話できるロボットの開発は可能だろう。受付ロボット、独居老人向けロボット、英会話学習用ロボットなど、特定の領域に用途を限定したロボットが今後、数多く登場することだろう。
そして先手必勝の法則は、これらの領域でも有効となる。より多くデータを集めることができたところが正のスパイラルに入り、一人勝ちすることになりそうだ。
ネットビジネスの常識が、ありとあらゆる領域のビジネスの常識になる時代。ちょっとした技術革新でも、老舗企業が倒れ、新しい企業の躍進を可能にするようなインパクトを持つようになるかもしれない。
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