東京大学のソーシャルICT研究センターは、患者やその家族がスマートフォンを使って介護記録を管理できるアプリの実証実験を始めたと発表した。介護記録や電子カルテなどのデータを施設や病院側で管理する仕組みはこれまでにもあったが、データを患者側でも管理できるようにするのは異例。ユーザー主導のビッグデータ活用の新しい形として注目されている。
ビッグデータに注目が集まりながらも目立った成果が出ていないのは、事業者間のデータ共有が進んでいないからと言われる。本当に必要なデータは、他社が持っていることが多いからだ。そこで国や産業界が、データ共有を促進するための仕組み作りを急いでいるが、データ漏えいやプライバシー侵害の問題もあってなかなか進まないのが現状。そんな中、注目を集めているのが、ユーザー自身がデータを管理するパーソナルデータストア(PDS)と呼ばれる手法だ。ユーザー自身が自らの意思でデータを管理、共有を行うことで、プライバシー問題の回避やシステム開発コスト削減につながるのではないかと期待されている。今回の実証実験は、医療、介護の領域におけるPDSの先進的な事例になりそうだ。
発表によると、同センターの橋田浩一教授の技術指導の下、山梨県の社会福祉法人惠信福祉会の3つの介護施設において、70名以上の入居者の介護記録が入居者とその家族のスマートフォンアプリで管理できるようになった。この仕組みを実際に利用しているのはいまのところ1人の入居者の家族だけだが、家族は、入居者の日々の生活の様子や健康度を把握できるほか、そのデータを自分たちの意思で、他の医療機関や介護施設、配色事業者、自治体、成年後見人などに自由に提供できるようになった。
医療機関や介護施設間でのデータ共有は、システム開発、運用コストが大きい上、競合する事業者間ではそもそもデータ共有が不可能な場合も多かったが、本人とその家族がスマホアプリを使ってデータを暗号化してGoogleドライブやDropboxといったクラウドサービス上で管理することで、低コストで自由な共有が可能になる。同教授によると、個人が介護記録などのデータを電子的に管理し事業者と共有して活用する仕組みは世界初という。
同教授は、「地域医療連携が進む中で、PDSのメリットに多くの関係者が気づき、医療分野で一気に普及するのではないか。そうなれば、医療以外の分野でもPDSの考え方が広がる可能性がある」と話している。