Googleが自社開発の人工知能(AI)をオープンソース・ソフトウェアとして公開した。Googleの最新鋭の人工知能をだれもが利用できるようになる。今後あらゆるサービス、アプリに人工知能が搭載されるようになり、インターネット産業のみならず、すべての産業に大きな影響を与えることになるだろう。
▶検索の会社からAIの会社へ
Googleがオープンソース・ソフトウェアとして公開したのはTensorFlowと呼ばれるアルゴリズム。Googleの画像認識や、音声認識、翻訳、メール分別、自動返信、広告など、Googleのほとんどのサービスに利用されているAIだ。
試しにGoogle Photosで「犬」と検索してみてほしい。大量の写真をただアップロードしただけで分類もタグ付けもしていないのに、犬が写っている写真を自動的に見つけ出して全部リストアップしてくれる。すごい技術だ。
Googleはもはや検索エンジンの会社と形容すべきではなく、AIの会社と形容されるべきなんだと思う。
▶データがなければAIは賢くならない
この競争力の源泉とまで見られているすごいAI技術を、Googleはどうしてオープンソース・ソフトウェアとしてだれでも利用できるようにしたのだろうか。
理由は簡単。AIは大量のデータと優秀なエンジニアがいないと賢くならないからだ。
GoogleのAIが「猫」という概念を自分でつかむためにYouTubeの静止画像を1000万枚コンピューターに読み取らせる必要があったといわれている。
またFacebookの顔認識AIが米軍のAIよりも認識精度が高いのは、Facebookの方が顔写真データを大量に所有しているからだ。
つまり、AIが賢くなるには大量のデータが必要で、大量のデータを持っている会社のAIが最も賢くなる。Googleは、世界で最も大量にデータを持っている企業の1つ。AIアルゴリズムを公開したところで、Googleの優位性は揺るがない。
またAIを賢くするためには、優秀な技術者が、目的にそってアルゴリズムを何度も何度も微調整する必要があると言われている。Googleは世界で最も多く優秀な研究者を抱えている企業の1つ。この意味でも、やはりGoogleの優位性は不動なわけだ。
一方でオープンソース・ソフトウェアとして公開することで、世界中の技術者が寄ってたかって改良してくれるわけだから、AIアルゴリズムがさらに改良される。その改良されたアルゴリズムにGoogleが持つ大量のデータを読みこませれば、GoogleのAIはさらに賢くなり、Googleのサービスはさらに使い勝手がよくなる。
またGoogleがモバイルOS「Android」をオープンソース・ソフトウェアとして公開することで世界中の携帯電話メーカーに非常に大きな影響力を持っていることから分かるように、AIアルゴリズムを公開すれば今後非常に大きな影響力を手にすることができるだろう。
今回の公開を受けて、今後あらゆるアプリやサービスにAIが搭載されてくることになる。影響はインターネットビジネスだけではなく、産業界全般に及ぶようになるかもしれない。
GoogleがAIを公開したことで、多くの企業にとって競争力の源泉はデータになろうとしている。大量のデータが次々と蓄積させる仕組みを持ったところが有利になるだろう。またその先には、消費者が自らデータを管理する時代がくると言われている。消費者が管理するデータをどう集め、どう流通させて活用するかが、競争力の源泉となる。「データ経済社会」の幕が切って落とされたわけだ。
歴史が動いた。