13
 

米調査会社Jupitor Researchによると、家庭向けロボットは今後急速に普及し、米国内での普及率が今日の4%から、2020年までには10%以上になる見通しという。Jupitorの発表文によると、どうやら米国で言うところの「家庭向けロボット」とは、お掃除ロボットのルンバを始めとする道具としてのロボットが中心のようだ。

一方で日本で動き出したプレーヤーたちは、家庭向けロボットとして、人間とのコミュニケーションを主体に考えるロボットを手掛ける人たちが多い。「欧米はロボットを道具とみなし、日本はロボットを友達として扱う」と言われる。確かにその傾向があるのかもしれない。ということは、欧米が道具としてのロボットを開発している間に、日本勢がコミュニケーションロボットの市場を牽引し成功する可能性は十分にある。非常におもしろい領域だと思う。

僕が主宰する少人数制勉強会TheWave湯川塾の第30期は「ソーシャルロボット」と題して、日本のコミュニケーションロボットのトッププレーヤーたちを講師に招いて行った。尖ったトピックだったので塾生も尖った人が多く、非常に有意義な議論ができたと思う。集まったコミュニケーションロボットに関する知見はいずれ何かの形で発表したいが、とりあえず30期が終わった今、僕が感じていることを簡単にまとめたいと思う。


▶人間の脳は、人の形に特別の反応をする
 
まずコミュニケーションロボットには少なくとも4つの特性があるということが分かった。
 
 
(1)人の感情に働きかける
 
人を想定させる形状というだけで、人間の脳は特別な反応を示すようだ。赤ちゃんに両親の声を録音したものを再生して聞かせても言葉を覚えないが、赤ちゃんが人間の顔を認識するとその音声を覚えるという実験結果もあると聞く。人間の脳は、データとノイズの選別を、まずは人の顔をベースに行っているのかもしれない。

また要らなくなった人形を、捨てるに捨てられず、お寺に奉納する人がいる。人形をゴミとして捨てられないのも、人間の脳が人の形に特別な反応を示すためだろう。

湯川塾でも実際に体験してみた。(関連記事「ロボットを通じてALS患者の友人と過ごしたかけがえのない時間」

隣に置いたロボットを離れた場所から友人が遠隔操作することで、その友人の存在感を確かにその場で感じた。スクリーンに顔が映し出されるのとは、まったく異なる感覚だった。その効果の大きさは体験してみないと分からないと思う。

僕自身はまだ体験していないが、ロボットベンチャーの雄、ヴイストン株式会社の大和信夫氏は「人間はコミュニケーションロボットと生活をともにすれば3ヶ月から半年で愛着を覚えるようになり、人間にとってかけがえない存在になる」と語っている。

もしコミュニケーションロボットが人間にとってかけがえない存在になるのであれば、コミュニケーションロボットは、パソコンやスマートフォンとは比較にならないほど影響力の高いデバイスになるはず。当然、周辺には数多くのビジネスが生まれることだろう。


 
(2)人間の脳は足りない部分を補完する

ロボットに人間の存在感を持たせる方法は2つ。人間そっくりに作るか、もしくは反対に形状をできるだけ抽象化するかの2つだ。 今回の勉強会では、後者に大きな可能性を感じた。

株式会社テレノイド計画の遠隔コミュニケーションロボットの「テレノイド」は、目の部分から視界の縁に行くほどに形状が抽象化されている。オリィ研究所の 分身ロボット「OriHime」は、顔が能面のようなデザインだ。
 
能面のような顔にすることで、人間の脳は勝手に足りない部分を補完し、表情を勝手に想像してしまうようだ。テレノイドを遠隔操作している人が友人で、好意を持っている人ならテレノイドの抱きしめたくなり、反対に嫌いな人の声がテレノイドから聞こえてくると、テレノイドを投げ捨てたくなるという。

同じ無表情のテレノイドでも、聞こえてくる声によって、まったく違う表情に見える。非常に不思議な感覚だ。


 
(3)でもやはり人間ではない

 
人間のように感じても、当然ながら人間ではない。人間の脳のほうも、どこかでロボットを人間でないと認識しているので、人間とは異なる対応をする。

例えば「ロボットだからうそはつかない」と人間のほうで勝手に思い込むようだ。ソフトバンクのPepperが「お姉さんは、きれいな瞳をしていますね」と言うと、ほとんどの女性がお世辞と疑うことなく喜ぶのだとか。

また後ろで遠隔操作しているのが人間であることが分かっていても、ロボットを通じての対話なら緊張しないようだ。また引っ込み思案や人見知りの傾向のある人が、ロボットを通じてなら多くの人の前で話しすることができるという。

この特性もまた、いろいろなビジネスに活用できると思う。


(4)ロボット2体と人間一人なら、人間のほうが気後れする

これは僕自身体験していないが、体験者によると強烈な感覚のようだ。ロボットと一対一で対話しているときに、話が咬み合わないのであれば人間はロボットのほうに問題があると考える。ところがロボット2体の間で会話が成立していて、人間のほうが2体のロボット同士の会話の内容を理解できないのであれば、人間は自分の理解能力に問題があると感じてしまうようだ。

そういう感覚になると、人間のほうがロボットに歩み寄って、理解しようと努める。対話エンジンの性能が今一つであるのなら、ロボットを2体並べることで、人間のほうの努力で会話の理解度が上がるかもしれない。





▶4つのビジネスチャンス

30期の議論で分かったことは、対話エンジンはまだ完璧からは程遠いということ。急速に進化しているとはいえ、いずれ完璧な状態にまで進化するのかどうかも実は分からない。そうであるのなら、不完全を乗り越えるために何らかの工夫が必要になるということだ。

対話エンジンの進化の段階によって、必要な工夫の形も変わってくるだろうし、ビジネス化の領域も変わってくると思う。

現時点の技術ですぐにでも実装できるコミュニケーションロボットの利用領域としては、分身ロボット、カウンセリング、ペット、エロの4領域が有望という話になった。


【分身ロボット】
(1)の特性から、OriHimeのように分身ロボットとして、不登校や入院中の子供が学校の授業に参加することができる。

電話と違って相手の心に直接作用するので、「落としきれない彼女にプレゼントするのがいいのではないか」というアイデアも出た。

またテレノイドの簡易版とも言えるクッション「ハグビー」を株式会社京都西川が9月から取り扱っているが、爆発的に売れているという。ハグビーの頭部にあるホルダーに小型無線スピーカーを入れて幼児にハグビーを抱っこさせ、母親は台所仕事をしながら携帯電話からハグビー経由で話かけると、幼児はリビングでおとなしく待っていることができるのだという。

 
34

 
【カウンセリング】
(3)の特性から、人間のカウンセラーに話しするよりも、ロボットに話するほうが気が楽という人がいるかもしれない。

また(4)の特性を利用すれば、人間は積極的に話を聞こうとするので、新しい形の教育やカウンセリングにロボットを応用できるかもしれない。



 【ペット以上、人間未満の存在】
 
男性と女性では女性のほうが、コミュニケーションロボットに対して圧倒的に好意的だという。独居老人向け、独身女性向けには、孤独を癒やすロボットの市場があるのかもしれない。
 
高齢者向けの体操ロボットを使うと、体操を継続する人が圧倒的に多いという。ビデオだと飽きるのだが、ロボットなら仲間意識が芽生えるらしい。エキササイズビデオなどの市場に、ロボットが新しい旋風を巻き起こすかもしれないと思った。
 
また議論の中で次の言葉に感銘を受けた。「人間は気持ちが腐らなければ、どんな試練をも乗り越えて成長できる。気持ちが腐るということが最大のリスク。気持ちが腐らないように常に寄り添って存在を承認してくれるロボットがいれば、人間はだれでも成長し続け、だれでも幸せになれる」。そんなロボットが出てくれば、確かにすばらしいと思う。


【そしてエロ】
これは王道だと思う。(2)の特性を活かして、ロボットのオンラインキャバクラなんかの事業もできそう。
 
湯川塾30期の最終回では、「エロ」「ペット」「分身」の3つの班に分かれて議論してみた。いろいろなビジネスのアイデアが出た。まさに宝の山の上に座っているような感じ。大和氏は「ソーシャルロボットはあらゆる産業に突然降ってきた無限のビジネスチャンス」と言うが、確かにそうかもしれないと思った。

時間があるときに、30期の議論の中で出てきたビジネスのアイデアをまとめてみたいと思う。








【お知らせ】 この記事はBLOGOSメルマガ「湯川鶴章のITの次に見える未来」の無料公開分の記事です。