世の中の割と多くの人が信じていることで、僕の経験上、違うなって思うことが2つある。
1つは、幸せって、外部要因で決まるということ。お金持ちになったり、有名になったりすれば、幸せになるって思っている人が多いけど、必ずしもそうじゃない。
もう1つは、生まれつき運のいい人と悪い人がいる、ということ。「あの人はいいなあ」と羨む人がいるけど、他人から見れば羨ましい生活を送っているようでも、実は大変な試練を持っている場合が多い。
僕は、幸せって自分の心の持ちようだと思うし、運は自分でよくできると思っている。
どんな人にでも、嫌なことは起こる。だれもが年老いて、最後は死ぬ。悲しみのない人生なんてありえない。
でも生き方じょうずな人は、どんな悲しいことに出あっても、比較的すぐに回復し、それ以上の不幸を引き寄せない。生き方が下手な人は、いつまでも回復できずに、さらなる不幸を次々と引き寄せるんだと思う。
つまり幸せな人は自分をどんどん幸せにできるし、不幸な人は自分をどんどん不幸にする傾向にある。残酷なようだけど、これは人生における真実だと思う。
そこに最近は、脳って大人になってからも回路が組み変わることが分かってきた。ニューロ・プラスティシティと呼ばれる現象なんだけど、脳もある種の筋トレが可能で、ストレスに強い脳を自分で作り出すことが可能なことが分かってきた。幸せな気持ちになることも、人にやさしくなることも、脳のトレーニング次第。つまり幸せって、鍛えることのできる一種のスキルなんだということが分かってきた。
清水さんはこの本「ハッピークエスト」で、幸せ上手になるためのスキルを丁寧に解説してくれている。社会全体の物質的な豊かさは、ほぼマックスにまできた21世紀。これからは、どう自分の心を整えるのか、幸せスキルを磨くのかが重要になってくる。特にAIとロボットが次々と人の仕事を奪っていく中で、人によっては心が弱くなることもあると思う。筋トレと同じで、トレーニングジムに通い始めた次の日に、筋肉隆々になれるわけじゃない。トレーニングの積み重ねで、試練に強い幸せ脳が完成する。今のうちに、より多くの人に幸せになるトレーニングを始めてもらいたいものだと思う。また病気で熱があるときには、トレーニングできない。元気なときにこそ、トレーニングを積み重ねたいと思う。
この本は特に2つの点で優れていると思う。
一つは、文章が上手だということ。ニューロ・プラスティシティに関する最新の研究の成果なども紹介されているんだけど、文体がカジュアルで非常に読みやすい。清水さんって漫画や映画をプロデュースをしているのでビジュアル系に才能があるのは分かっていたんだけど、文才もあるんだなって思った。
もう1つは、決して上から目線ではないこと。自分を十分に愛して人を責めないということが、幸せ上手には不可欠だというのは真実なんだけど、それでも自分に自信をなくしたり、だれかのせいにしたくなることもある。こうした気持ちは一種のワナで、僕自身もこのワナに絡み取られることがよくある。この本の2番目のいいところは、清水さんも、ときにはこのワナに陥ることがあることを正直に書いているということ。幸せ上手の清水さんだって、完璧じゃない。完璧じゃないけど、失敗しながら幸せの山に向かって進んでいるわけだ。
幸せの山への道は1つではないけど、清水さんは多くの人にとって最も登りやすい道を指し示してくれているのだと思う。さあ、幸せの山に向かって今日も一歩踏み出すぞ。