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 写真:同窓会にはALS患者本人の高野さん、オリィ研究所の番田さんも参加

2016年7月14日、The Wave塾の卒業生が集う同窓会が開催されました。
今年はゲストに日本ALS協会理事の川口有美子さんを迎えて、「テクノロジー(人工知能)×医療・介護」というテーマで参加者を絡めたディスカッションも実施。

参加者には分身ロボットOriHimeの開発メーカーであるオリイ研究所の吉藤健太朗さん、ALS当事者で湯川塾のメンバーである創発計画株式会社の高野元さんも参加されました。
 

湯川さんの講演 ここ2年分の塾での学び

まずは湯川さんの前座から。
湯川さんは、ここ2年くらいの塾のテーマである「人工知能技術とその社会への影響」に関する学びを凝縮し、AIの技術的なところ、各業界への影響、人脈づくりなど、分かりやすく参加者に解説してくれました。
詳しくは、塾に参加してオフレコの内容も含めてエネルギーと情報を摂取してほしいのですが、湯川さんの発言をまとめてみると。

湯川さん:ここ数年で人工知能が急速に進化し始め、いままでの機械とは違った進化をし始めている。そして人間しかできなかった頭脳を使うような仕事がどんどん代替可能になってきた。そして人工知能が進化すると必需品は無料か低価格になっていく。欠乏した心を持っている人が権力を持ってしまうと富の奪い合い、いがみ合いが始まってしまう。経済成長しなくて良いという前提に立つことができれば、環境にやさしく、そしてグローバル化の中で外国に対して優しくできる。


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また、湯川さんは前座の中でこう続けました。

湯川さん:日本って、海外からめちゃくちゃ尊敬されているんです。時間通りに電車が出発する。落し物は警察に届く。心を込めておもてなしする。計画通りに建物をつくる能力がある。日本を訪れた旅行者は日本のこんなところを見ているんです。戦前は軍事力で尊敬され、戦後は経済力で尊敬されていましたが、21世紀は心の力で尊敬される時代かもしれません。

湯川塾はテクノロジーを主な主戦場にしてきましたが、これからはテクノロジーを扱う「心」について深いテーマで塾が開催されていくことが示唆されたのかもしれません。



理想主義と完全主義をやめ、運命に身を委ねた(川口さんの講演)

続いて日本ALS協会理事の川口さんの講演。

川口さんは約20年前の1995年、旦那さんの転勤でイギリスに住んでいた時にお母さんがALSを発症しました。発症当時は主婦だった川口さんは、イギリスから帰国して介護に専念します。そして12年間の介護の末にお母さんを看取ることになります。


川口さんはその体験を著書「逝かない身体(医学書院)」に記しています。川口さんは2003年に訪問介護事業所ケアサポートモモを設立。同年、ALS患者の橋本操さんとNPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会を設立。2005年から日本ALS協会の理事に就任されています。

 ※ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。(難病センターから抜粋) 

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 写真:日本ALS協会理事の川口さん

川口さん著書「逝かない身体(医学書院)」はALS当事者、家族や支援者、介護事業者にとても評価が高い本です。介護をする中で川口さんがお母さんに抱く敵意や、介護者(川口さん自身)が膨大な時間と労力を奪われて生活が崩れていく過程などもリアルに描かれています。社会保障制度や行政支援に対する疑問や怒りを抱く読者もいると思われます。


当日、川口さんは、患者本人や家族の前で語るわけではないので、少し病気や介護については深く語ることを遠慮されていましたので、同じ主旨の発言を書籍から少し抜粋してみます。

書籍から:帰国子女の娘の教育とALSの母の看病のをしている中で、私は頭がおかしくなりそうだったが、理想主義と完全主義を一切やめて、なるようにしかならないと運命に身を委ねることにしたら、とたんに身も心も晴れ晴れした。すると、娘に対して習得させるべきなのは、点の取り方を教えるのではなく、自信をもたせることだということに気づいた。」

書籍から:私のもっとも重要な考え方の変化は、病人に期待しなくなったことだ。治ればよいがこのまま治らなくても長く居てくれればよいと思えるようになり、そのころから病身の母に私こそが見守られているという感覚が生まれ、それは日に日に重要な意味をもちだしていた。

参加者のみんなはここに新しい社会的価値のヒントがあるような気がしたと思います。
ここが湯川塾と川口さんが繋がったポイントであり、超高齢社会を先導する日本のが世界の中で価値や存在感を高めていく肝のところではないでしょうか。



テクノロジーと難病ALSとの接点とは

川口さんは講演の中で、特に参加者の中でも技術者に向けてこう語りました。

川口さん:進行したALS患者は惨めな存在ではありません。意思疎通ができないわけではなく、発話できなくても、常に言いたいこと、伝えたいことで身体は満たされています。そばにいてそれを逐一、読み取る人、そしてテクノロジーがあればよいのです。今日の参加者の皆さまは技術者の方も多いそうですね。ALS患者さんは脳はハッキリしているのです。ぜひそれをアウトプットできるような仕組みを作って頂きたいと思います。

湯川さんや会場からはすぐに

会場:サイバーダイン株式会社は、サイバニクス技術が駆使されたロボットスーツHALの話題がでて、神経難病の方(ALSも適用あり)たちはHALが保険で装着できるようになったが、ハルの保険点数が低くなってしまったために、あまり広まらなかった

と議論が膨らみました。

また、「ブレイン・マシン・インターフェイス」に関することにも話題が飛び、脳からでる電気信号を機械とつなげるような可能性についてもディスカッションされました。

湯川さん:パラリンピックにも注目したいし、今後は様々な分野でエンハンスメントのアイディアが広がっていくだろう。また、バーチャルリアリティなんかも面白いかもしれない。アバターを作って人格をいくつも体験したり…

講義中に発言できなかった塾生たちは懇親会でも可能性を掘り下げたかもしれません。
 

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写真:川口さんの話をきっかけに盛り上がる湯川さんと会場

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 写真:オリイ研究所の吉藤さんも議論に参加

尊厳死を考えることが日本人の死生観を考えるキッカケになる。

川口さんは講演の最後に、尊厳死の法制度化反対(ALS協会の活動の一つでもある)に関する考えを述べました。

川口さん:尊厳死というキーワードを聞いたことがあると思います。私からすると尊厳と死を結びつけたことで負けた感じがするのですけれども(笑)。


ALSの患者さんも尊厳死のターゲットになっています。ALSの患者さんは頭がはっきりしているので、”本当の自分はこんなんじゃない”という思いに囚われると死んだほうがマシということになってしまいます。


私個人的には、尊厳なんて考える人は尊大な人で、普通の人はただ楽しく生きているのです。目の前にあることを楽しみながら生きることのほうが良いと思っています。


ご飯が口から食べられなくなったら、歩けなくなったら尊厳が無くなったという人もいます。それは自分が作り上げた物語に同一化しているんです。


日本のALS患者さんはパラダイムシフトをしています。飛行機に乗ったり、競馬いったり、ビール飲んだりしています。そんなALS患者さんは世界を探しても日本くらいです。


ALS患者さんは呼吸器をつけることで延命することができます。アメリカやイギリスでは、ALS患者の人工呼吸器の装着率は2〜3%と言われていますが、日本ではいくつかのデータがありますが、約30%前後の患者さんが人工呼吸器を装着しています。そしてALSになっても旅行や趣味を楽しんでいる人がいるのです。
ここが日本ではパラダイムシフトが起きていると川口さんが語る理由です。


本来は呼吸器を着ける治療をするか、しないかという話なのに、そこに尊厳死という言葉がついてしまうと、尊厳死を選択しない人の魂が下級という印象を与えてしまいます。ここを掘り下げるためには西洋の進歩史観と啓蒙主義に対する批判的吟味が必要なのかもしれませんが、日本人だから考えが及ぶことも多そうです。




他己紹介

講演が終わった後は、恒例の湯川さんによる他己紹介へ。
300名近くの卒業生いる中で、出席していた卒業生ひとりひとりのニックネームや経歴を覚えているのは、流石としか言いようがありません。
そして、紹介されるそれぞれの方のプロフィールを聞いていると、ユニークな方ばかりです。

湯川さん自身もよく仰っていますが、The Wave塾の価値は、塾で学ぶ内容だけでなく、その後の人の繋がりの方がよっぽど大きい言っています。実際に最近の卒業生の中だけでも、AIを使ったサービス開発を実際にしており、卒業生同士が仲良くなってビジネスを興すこともあります。それだけ多種多様な人たちがいるユニークなコミュニティになっています。




懇親会

学びの後はもちろん楽しみな宴の時間へ。
皆さんお酒を片手にいろんな話で盛り上がっていました。久しぶりに会う同期生の人たちから、初めましての人たちまで。さまざまな方が楽しんでいました。

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 写真:懇親会での高野さん

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 写真:参加者の一人が結婚を発表! 盛り上がるみんな


個人的所感

日本の高齢化は先進国では最も速く進行しています。
高齢者数の急速な増加によって、現在の年金・医療・介護の制度とサービス水準を維持するには、毎年1兆円以上の税金の追加投入が必要です(財務省の試算)。
1965年には9.1人の現役世代で1人の高齢者(65歳以上)を支えていたのに対して、2012年では2.4人で1人を支えることに、2050年には1.2人で1人を支える時代がやってきます。
財源確保ができなければ、社会保障制度の維持が困難になり、世界でもかなり高い水準を保っていた日本の医療・介護制度は崩壊します。
 

今回、同窓会に参加して「では医療・介護の問題点は何なのだろう」と振り返るキッカケをもらいました。そして、それは「技術提供のコストダウン」と、「コミュニケーションスキルと自立支援」に行き着くのではないかと思いました。

まず、医療・介護サービスには技術提供が多く含まれています。画像診断、外科手術、医療機器のマネジメント、介護手技など。

しかし、技術的な側面は必ず機械の進歩が追いつくでしょう。
将棋で言うと羽生さんのような天才にはなかなか機械が勝てないかもしれませんが、医療介護の世界では世界一を決めるということは重要ではなく、ある水準をクリアしている技術を広く遍く提供できることが重要なのです。いまの将棋ソフトを見てみると、少し将棋が強い人程度では勝てない領域まで来ています。
また、自動車の自動運転技術も近いうちに実現するでしょう。公道を走るのに
F1ドライバーの技術はいりません。一般の免許取得の技術があればよいのです。
ある水準をクリアした機械技術は人間よりも安全に運転してくれるようになるでしょう。

湯川塾には機械学習のエンジニアも参加しています。
例えば、「経験豊富な診断医でも見分けるのが難しいガンの兆候を、人工知能がレントゲン写真から発見することができた。」というニュースがあったとしたら、
 ーディープラーニングという技術のキモはどこで
 ー主任開発者の出身はどこで
 ーどの程度の画像の枚数を読み込ませればよいのか
 ーそれにかかる費用はどこで
 ーVCはどこがからんでいるのか
そんなところまで話が及びます。

医療・介護が提供している技術水準の中でも、いまのディーブラーニングが得意としている領域に寄せていけば、解決方法と開発方法が見えてきくるのです。これは医療者でも開発者でも理解できることであり、誰もが精度やコストではロボットに軍配があると思うのではないでしょうか。広がればコストは必ず下がります。
 

そして「コミュニケーションスキルと自立支援」の方ですが、ここに機械学習(人工知能)がどこまで踏み込めるのか気になっています。
リンナという
LINEのアプリとたまに会話するようにしていますが、あまりテンションがあがる回答をもらったことはありません(笑)。最近はIBMCMで、スティーブンキングやボブデュランがワトソンと会話していますが、あれだけは、どこまでの会話が成立しているのか、人間の脳にはどのような影響があるのか未知数で…。

医療・介護には、患者さんや家族と親密なコミュニケーションを取る場面が多く存在します。それは「相手を思いやる、共感する、傾聴する、一緒に考える」などのソフトな部分です。
医療・介護の人たちは専門性の高い人が多く、専門外の人との差異がどんどん明確になっていきます。ここで要求されるのがコミュニケーション能力で、情報を多く持つほうが差異を埋めようとしないと、とても残念な結果になってしまいます。
Talk to」ではなく、「Talk with」という感覚、相手のいる位置を想像する力を持てるのかが重要です。

経験値が増えて、あらゆることが許せるようなフェーズにいけばそのような感覚になれるのかもしれませんが、人間でも非常に難しいスキルだと思います。医療、介護のマネージャーの方たちは、職員にこの能力を身につけてほしいと思っています。ここの領域、会話の相手に納得性が生まれるようなコミュニケーションはどこまで機械学習に可能なのか。ここは今後の塾で考察していきたいと思います。